三時間の逢瀬
「何でいるんだよ……。」
今回のアップデートで消滅したんじゃなかったのか、もしかして運営は失敗したんじゃないだろうか、そういったことが頭をよぎる。その線は無いと考えたいが、では何でコイツはここにいるんだといったことになる。もしかしてバグの元凶では無かったということなのだろうか。でもそうだったらクランチャットの方で結果が出ているはずなのに。
「一応確認しておこう。」
そう思ってクランチャットを立ち上げようとすると、何かメッセージが届いたことを知らせるアイコンが躍っていることに気が付く。開いてみると運営からのお知らせであった。正直初めてのことなのだが、もしかしてアップデートの度に送っているものなのかもしれない。
「…先に見ておくか。」
今回のアップデートの内容でどのように変わったのかのパッチノートである可能性が高いからな。先に見ておくことで愚問にならずに済む可能性があるのだから、先に拾うべきなのだ。転ばぬ先の杖だ、確認しない恥を起こすべきではない。
『今回の緊急アップデート並びにパッチに関して。』
やっぱりそうだった、きっと今回の件を知らない人だっていたはずだ。そういった人の中には一切調べずにデマに流されてしまう層が一定数いることが多い。事後ではあるが、そういったアンチに回りかねない人を減らすためにもこういった行いは結構重要だろう。
長々と今回の件に関して書かれているソレを斜め読みしながら飛ばしていく。一字一句読んでたら何時間あっても足りないからな、多少は読み飛ばす必要があるだろう。
「さて何処にあるかな……。」
今回のアップデートについてでは、前回サイレントで追加されていた要素に致命的なバグが付いたまま実装されてしまったために急遽修正パッチを当てることになったとだけ書かれていて、その原因については深く言及していなかった。少し避けているとでも言えるだろうか、もしかしていつの日にか実装するためにあえて今回は回避したとか言わないだろうな。
「紙魚に関する言及は無しか…。」
やっぱりコイツが原因ですよとは言えない何かがあるのだろう、もしかしたら実装理由が上からのゴリ押しだったとか、デザインが重役の関係者だったとかな。
ポコンとさらに通知が鳴る、運営からの個別メッセージであった。何だろうか、特に個人にってなると恐怖感が湧くんだよなあ。もしかして口封じだろうか、だったらレアアイテムを寄こしなっ。
『今回問題になった紙魚に関して、従魔にしたお客様の皆様へ。』
やっぱり問題は紙魚にあったのね、そこだけ分かっただけでもちょっと安心した。もし違ったら何言われるか分からないからな、被害妄想だけども。
さて、そんなことは置いておいて内容を読んでみるか。パっと開いてみるとさっきと比べて短い文章が飛び込んできた、もしかして手抜きかな。
『お客様へ。今回実装されました紙魚に問題があり、協議の結果一時削除されることになりました。ですが従魔化された方が一定数いらっしゃったため、ログインから三時間の間、無害なオブジェクトとして追加することとなりました。最後の出会いとなってしまいますが、どうご了承ください。』
……なるほど、愛着が湧いていた人用に別れの時間を作ろうという判断なのか。正直俺も少し愛着が湧き始めていたから嬉しいと言えば嬉しい、だけど結構覚悟してきたからこそ驚きというかなんというか、正直恐怖感が凄かったぞ。
「?」
「…いや何でもないぞ。」
首を傾げて疑問を浮かべる紙魚、本当最近虫の感情が分かるとかいう異常状態になっているけども、まあこういう時に役立つからまあいいか。
「最後に観察、もう一回しておくか。」
ペンと手帳を手に取る、もう消えない手帳だ。そこに少し一抹の寂しさを覚えるのは流石に毒され過ぎたのだろうか。