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そこにあるもの

お待たせしました。

 目に光が差し込む。いつもと同じように柔らかい風が頬を撫でては通り過ぎていく。かつて川を流れる水はいつも移り変わりそれをもののあわれと言い表した人がいたが、その流れを汲むのであればこの電子の世界で流れているこの風もまた同じものでは無いのかもしれない。

 目を開く、瞼に遮られていた光が多くの情報を持って殴りつけてくる。いつもと変わらない草原の上に俺は立っていた。見慣れた草原だ、始めて一週間はそこで過ごしたんだから。

 「何で初期リス地点にいるんだ…俺。」

 おかしいな、俺は確か南部を脱して元の調査地点に戻っていたはずだが、ここまで来てはいなかったはずだ。だというのに何で初期リスなんだろうか、座標でもバグったのか。

 「…一応確認しておこう。」

 もしかして初期化されてしまったのではないかと思い回りを、自分を見る。見た目は大斑蜘蛛一式であり、初期装備ではない。この事から初期化されたという線は消えていく。

 次に回りを確認する、いつものうちの子たちがそこにいるはずなのだが、いくら見回しても何処にもいない。急いで従魔の欄を確認すると、そこに名前はしっかり書かれている。つまりいるのに見えないという状態になっているのだろう。

 「もしかして最初のフラグがリセットされているのか?」

 このゲームは最初、景観を楽しんでくれという運営のイキな計らいによって自分以外のプレイヤーが見えなくなる。それ以外にも特定のモブのみが見えるという特殊な状況になるのは全員が体験することのはずだ。

 今回俺が初期リスに湧いてしまったのも今回のアップデートでフラグ関係がリセットされたことによるものだろう。だから俺は今この視覚に捉えることができないんだろう。

 「カグヤ…ダンゾー…そこにいるのか?」

 ぎゅっと袖が掴まれた感覚、見えなくともそこにいるのだろう。兎に角そこにいることを知れたというのが大きい。ここにいるのならすぐそこにセレストもいるのだろう、さっさと走ってフラグ回収してきますかね。

 「おや、あんさんここじゃ見ない顔だねえ。旅人かい?」

 村の入り口で背負子にいっぱい摘んだ野草を入れたおばあさんが物珍しそうに声を掛けてくる。どうやら最初に声かけしてくる人はランダムだったようだ。

 「ええ、まあそんなところです。」

 「あら大きな武器…冒険者さんだったのねえ。」

 だったらあっちに派出所があるよと指さして教えてくれる。ごめんおばあちゃん、それ知ってるんだ。

 「ありがとうございます、それでは。」

 スタスタと歩いてそのままあの一週間ずっと通い詰めたあの場所へと向かって行く。あの時よりも速くなったこの足で。

 「お前さんに出すようなもんウチには無いぞ。」

 出会って一秒、やっぱりマスターは口と人相が悪い。こんな会話が発生するということは、恐らく昔にもこういったことがあったからなのだろう。そうならないように工夫して欲しいのだけども。

 「ええ、少し顔を出しておこうかと思っただけですので。」

 「たっく…そういう奴がさっきから多いのはなんなんだよ。」

 ぶつくさ言いながら元いた安楽椅子へと向かって行く。俺以外にもフラグリセットに見舞われた奴が大勢いたのだろう。少し安心しながらそのままギイと古い木製の戸を開けて去る。ここを出ればいつものように見られるようになるはずだから。

 「ふう…ただいま。」

 「おかえり!」

 ぎゅっと体を掴んでくる幼女、カグヤだ。その肩からぴょんと跳ねて飛び乗ってきたのはダンゾー。セレストはじっとこっちを見ているだけだ。

 「…ん?」

 モゾモゾと何かが腕を這っている感触、蜘蛛糸でも引っ付いただろうか。そう思って視線をずらすと。

 「…何で。」

 いた、紙魚だ。あの紙魚が腕を這っていた。



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