バグ
すいません、ネタ不足でまた不定期になります。
『ちょっとヤバいかもしれない。』
その文字列が俺らフィールドワークのグループチャットに送られてきたのは、俺が違和感を覚えた次の日であった。お前仕事はいいのかって聞かれそうだけども、まあ大丈夫だよもう終わらせての定時退社だ。嘘だ、残業してもう21時を回ったけど明日が祝日という理由で無理にやってるにすぎん。
閑話休題。何が不味いのかと言うと、一緒に送付されていた画像が物語っていた。
そこにあったのは無数の白紙に、文字化けが大量に書き込まれた謎の資料、前者はともかく後者は一目見ただけで異常だということは普通に分かるだろう。
「……白紙を乗っけた理由は何となくわかってしまうけど……。」
送られてきたメッセージをさらに読む、俺にも起きたことと酷似していたので事前に予想していたことと同じ内容であることがそこから読み取ることができた。
「…『かつて書いたものが白紙になったり文字化けしていた』か。」
パラパラと自分の手帳を開いていく。ページはダンゾーから書きかけだったテントウムシへと移っていた。
「なるほどね。」
そこにあったのは文字化けの嵐、すべての文字が訳の分からない、解読不能の記号や漢字へと置き換わった暗号文のような状態へと変化した姿であった。
「これは調査とか言ってる場合じゃないかもな。」
さて、もう一度コナラさんに現状を伝えておこうか。ここにも同じ内容を投稿しておいて、対策方法を全員で考えるとしましょうか。
手が自然にタッチパネルへと動いていく、意外とこういった感じのアクションは心が踊る。だってそうだろう、物事の解決に自分が役立てるのならこれ以上の幸いは無いだろう。
「……あれ。」
おかしいな、前確かにあの紙魚について送ったよな。どれだけログを遡っても何処にもその内容が出てこない。いや送ったはずだ、写真も断定的な食性に関しても。
「おか縺励>縺ェ窶ヲ窶ヲ」
文字をタップして送ろうとする、急げなんだか嫌な予感がするんだ。仕事中でもこんなに早くタップしたことは無いだろう、そんぐらいの早さでキーボード状のパネルを押していく。
クヌギ:もしもしコナラさん、いますか!
コナラ:いる。
よかった、どうやら今ログインしているようだ。これならタイムラグも生じることが無い。
クヌギ:団で起きている異変、もしかしたら前言った紙魚が関係しているんじゃないかって思ったんですよ。
コナラ:…あれね。
やっぱりちゃんと送れてたんだ、ログに存在しないのももしかしてあのデータを食う性質から来ているのかもしれない。それって結構ヤバイ気がするけど、文字化けする前に早く何とかないと。
クヌギ:グルチャには自分が書き込んでおきますので、後で集まって対策考えましょう。
繧ウ繝翫Λ:繧上°った
「嘘だろ」
向こうでも文字化けが始まっている。思わず自分のペットとなった紙魚を見るが奴は籠の中から動いておらず、先ほど俺が適当に書いた文章をモグモグと食べている。つまり向こうにもコイツと同じような奴がいるということだろう。
「雖後↑莠域─的中……。」
まて、俺いまなんて発音した……。自分の耳でも理解できない言語を発していなかったか、少なくとも俺の耳と脳はそう判断した。
今までずっと気になっていたことがあった、それは何故ゲーム内で普通にしゃべることができたのかについてだ。マイクが付いているというのなら分かるが、今俺らが使用しているヘッドセットには付属していない。いやそもそも付属しているものは基本旧世代の化石品のみなのだが。
もし今までの「声」は全て最初の入力時に作り出された音声ファイルだったら……。そして今、食害がそこまで到達し始めているとしたら……?
「不味いってレベルじゃねーよ。」
こんなの、ゲームの存亡すらかかった大事件じゃねーかよ。