異変
さてと、異常な食性が判明したところだしそろそろいつものように手帳に記入して図鑑を仕上げるとしましょうかね、そう思いパラパラと捲って空きスペースを探していく。この手帳も随分と手狭になったものだな、結構絵だったり特徴とかを書き入れているだけでこれだけ長くなるものなんだなと思わずまだまだ始まったばかりだというのに感慨深い何かしらの心理現象に襲われる。
「……たまには見返してみるかな。」
こんなノスタルジックに浸るのはまだまだ先の話であるはずというのに、なんだか思い出したくなってしまって仕方がない。まずは俺のスタート地点であるキャタピラーについて書きなぐってはやり直した最初のページへと戻るべきだろう、あれが俺を変えたと言っても差し支えないからだ。
「…ふふっ。」
やはり俺の字は汚いな、この手帳はパネルからの入力じゃなくてわざわざ手書きだからその人の性格というものが物凄く表れてしまうのは少し問題があるな。まあ俺がそこに関して気をつければいいだけなのだけども。
「じー…。」
「どうしたカグヤ。」
声に出すほどこっちを凝視し続けるカグヤ、いつも俺が手帳に何か書き入れている時にそんな目をしたことなんてなかったのに今日はなんだか珍しいな。
「見たいのか?」
もしかしてと思って聞いてみる、今まで一切興味を示してこなかったから俺の活動に関しても何かしている程度のものという認識だと思ってたんだけども。
「うん!」
あら予想外、思わずそう呟いてしまう。昔ダンゾーの事を書いている間もただ側にいただけだし、それ以外の時だってふらふらと遊んでいたりと一切興味なんて示すことなかったんだけどなあ。
まあ別に見せて困るものでは無い、逆に元虫であるカグヤから見ておかしい場所があるかもしれないと考えると中々にいい感想が貰えるのではないだろうか。
「じゃあ一緒に見ようか。」
そういって近くにあった木の幹に背中を預ける。カグヤは腿の上に乗ってよいしょと座る、子供って何故か膝とか足の上に乗ろうとしてくるよね、あれなんなんだろうね。
「ほら、ここが最初だよ。」
そうやって見せたのはキャタピラーについての項目、俺の考察と生態がはっきりと書き込まれた一番拙くて一番情熱の入っているページだ。
「これ私?」
スラスラと見ていったカグヤが目にしたのは俺が頑張って描いたカグヤの見た目だった。疑問形になっているあたりそれっぽく見えていないのだろう、なんたる恥ずかしさ。自分の子に絵心の無さを指摘されるのはなかなか心にくるものがある。
「ああそうだぞ、良く描けてるだろ?」
「うーん……。」
あ、はいそうですね、描けてませんよね。その反応だけですぐに解ってしまう、カグヤは満足していない。……今度少しだけ絵の練習でもしてみようかな、もしかしたら他の虫を描く時に役立つかもしれないしな。
兎に角次のページだ、別にカグヤの目線に耐えられなくなったとかそういうわけではない、もちろん決して。
「……あれ。」
ページを捲る、次のページにあるのはカネナクシの説明のはずなのだが、そこにあったのはダンゾーことトリッキースパイダーに関する内容だ。おかしいな、もしかしてページが入れ替わったりしたのだろうか。いやそんな機能あっただろうか。
「ダンゾーだ。」
カグヤはぷくっと頬を膨らましている、恐らくダンゾーの絵が分かり易いことにご立腹なのだろう。だって仕方がないじゃん、俺蜘蛛は描けても人は全然うまく描けないんだもの。
「…やっぱおかしいな。」
すぐに次のページに飛び移るが、今度は絵が抜けている。一応下手でも図鑑には絵を挿入するようにしている、と言うのにこのページだけは絵が入っていないのだ。
「……何が起きてるんだ。」
バグだとしたらちょっと不味いな、特に俺らフィールドワークからしてみたらさ。