データ喰う虫も好き好き-5
すいません、日時また間違えました。
「でだダンゾー、お前は一体何持ってきたんだ。」
いや皆まで言うな、分かっている。蜘蛛糸からはみ出している足とか体の一部分でお前が何を持ってきたかぐらいはな。
「あー、そのな、ダンゾー。」
ニコニコしているような雰囲気を感じる、体が変わってからか昆虫の様子がなかなかに感じられるようになったのは嬉しいのだけども、こういったときは心苦しくなってしまう。
「紙魚は動物性のものを食うことは無いぞ。」
ガーンと衝撃を受けたような体勢を取るダンゾー、そうだったこの子はしっかりしているようで抜けているアホの子よりの性格をしていたんだった。いいかダンゾー、自分が食べてるものを必ず皆が口にするかと言ったらそうじゃない。俺が毎朝米を食うけども隣人はもしかしたらパンかもしれない。そもそも食べていないってこともあるからな。
「あー、でももしかしたら食べるかもな。」
しょぼんとしてしまったダンゾーをフォローするようにそう言う。まあここはゲームだ、さっき文字だったり写真食ったんだからもしかしたら変なもん口にする可能性だってある。
それにさっき植物性のものを口にしなかったことから、もしかしたらダンゴムシやフナムシみたく掃除屋としてこの世界では活動している可能性だってある。だから全く無駄という訳ではない、その可能性が物凄く低くてもだ。
このゲームは結構リアルの生態を準拠として生物の特徴を作り上げている。例えばあのテントウムシの説明は、幸運をもたらす虫であるという民間信仰から来ているだろう。アラクネの夫人の狡猾さは、蜘蛛という生き物の狩りと生態からくるもののはずだ。カグヤは例外だけどもさ。
「まあとりあえずあげてみるか。」
そういって手頃なサイズの糸玉を割ってみる。中にはピクピクと足を動かしてまだ生きているアピールをしている一匹の昆虫がいた、見た目的にアブだろうか。
「……ほら食べるか。」
虫かごの中にアブを落とす。さっきとは少し変わって興味を示して近づいてくるが、文書や写真を目の前にした時のような目のきらめきはそこには無い。これは何かが来たなという外敵かどうかの見極めによるものだろうか。
「あっ。」
そうこうして見守っていると、ダンゾーの毒が回り切ったアブが死んでしまった。ドロップアイテムなどがソイツから零れ落ちていくのが目に見えたから仮死状態でもないのだろう。
そんな時だった、目を輝かせて飛びついたのは。ドロップアイテムのは目もくれず、ポリゴン状に散っていく物体に齧りついていく。何故だ、何故そんなものに口をつけるんだ。
「…そもそもそれって触れたのか。」
試しにまだ形を保っているブロック状の青い正四面体い触れる、感触はそこに無く指先で触れただけだというのに簡単に粉々に崩れて散っていく。触るという行為はできると言えるかもしれないが、あんなに長時間崩壊させずに保たせるのは無理だろう。
「お前は一体何なんだ。」
ただの紙魚ではないことぐらいは最初の行動から分かってはいたさ、でもこんなことをする奴は初めてだ。特にこんな紙や繊維を食べるんじゃなくてこういったプレイヤーと関りがあるものしか口にしない生物なんてさ。