データ喰う虫も好き好き-2
「さあて、どうしてくれましょうか。」
チャットを終了させた俺は、もう一度コイツへと向き直る。奴はカグヤの手のひらで忙しなく回りをキョロキョロと見渡して、餌は何処にあるんだとでも言いたげな態度を取り続けている。うーん、このサイズと見た目だと可愛いな。もしこれがキャタピラーみたく30センチ程の巨体となって動いていたら、流石の俺も近寄りたくはないからな。
まず俺がすべきことは、こいつのスクリーンショットを撮る事だ。ただこれは場合によってはとても難しいことになる、こいつはさっきチャットに張り付いて文字化けを誘発させていた。もしこいつが表面上に現れるデータを食べる生き物というトンでもない食性を持っていたとする。その場合スクショでも撮ろうものなら、もう二度と開くことのできないファイルを一つ作らせることになってしまう可能性がある。
「よーし、そこを動くなよ。」
カグヤの手を覗き込むようにして写真を撮る。盗撮防止用のパシャリという乾いた音が辺りに響いていく。まあこんなに開けた場所だろすぐに音の振動は吸収されて消えてしまうのだろうけども。
「なるほど、動かないか。」
俺の予想は外れていたようで、パシャパシャと何回か撮ってみたもののカメラには一切反応を持つことは無かった。
「じゃあこれならどうだ。」
そう言ってさっき取った写真をアイテム化する。この機能は写真愛好家の多大なる尽力のおかげで実装されたもので、今ではフォトコンテストや写真館、写真集の販売等が行われるようになった画期的機能である。
その機能によって現物化した写真を近づける。するとピカっと目が光ったかのようにきらめいて、またもやその体からは想像できない速さで飛びついてくる。
「…なるほど、興味深い生態してるなあ。」
写真からはドットがどんどん抜けていき、何が映っていたのかが分からないものとなって行っている。モザイクがどんどん掛かって行っているようにも見え、モザイク画だと説明すれば意外と騙せそうなものだ。
「これ完全に人間、というかプレイヤーに依存した食性だよな。」
現実に生息している紙魚は本のページやノリを食い荒らす害虫である。ある意味人間の生活と密接に結びついた虫とも言え、イエゴキブリのように依存している存在ともまあ言えなくもない。
このゲームに図書館とかでもあるのなら結構な問題だろうけども、こういったものしか食べない、食べられないとなるといよいよこの生き物の明日は暗い。プレイヤーが常にこういったものを与えなければ餓死してしまう。
「まだほかに食べられるものがあるかもしれん。」
コイツの食性がここまで極端だとすると大問題だというのはさっきも説明しただろう。絶対何か他の代用品があるはずだ、それを探してみようか。
「と、いうことでだ。」
目の前にはビシっと敬礼のポーズをとるカグヤとダンゾーがいる、うん可愛いスクショ撮るね。
「皆には新入りが食べられそうなものを探してきてもらいます。」
ムフっと得意げな顔をするカグヤ、お姉さんぶりたいお年頃の子にはこういった新しい子の為という言葉がよく刺さるものだ。それに対してダンゾーはあくまでもクールぶっている。お前意外と抜けてるところあるからなあ、結構心配だったりするからな。
「それじゃあ解散!」
「おおー!」
カグヤが両手を上げてにこやかに走り出す。その後ろをピョンピョンと跳ねてついていくのがダンゾー、あくまでも保護者の立ち位置のようだ。
「さて、俺も色々探しますかね。」