8分咲き
『ふっ、いい加減にしたまえ。』
「ちっ」
二の太刀を入れようとしていたコナラさんの追撃が失敗する。流石に速さに慣れたのか、連撃を喰らう前に鱗で受け止め切って地面に叩きつける。
「行くぜクソトカゲっ、ヴァンパイアエッジッ。」
そしてコナラさんへ逆に追撃をかけようとする所を邪魔するように、フソウ君が奇襲を仕掛ける。隠密を駆使して急接近し、その首を狙うまさしく吸血鬼の名を冠する一撃を放つ。
「轟け雷鳴、今我が敵を打ち砕けっ。サンダーボルトッ。」
そしてターゲットがフソウ君に乗り移った瞬間に唱え終わっていた魔術を、ドンピシャのタイミングで直撃させる。雷系魔術のヒットストップによって奴はフソウ君を叩き落すことに失敗してしまう。走るなら今っ。
「偃月っ。」
右足の人で言う脛の辺り、先ほど見つけた傷跡に攻撃を加える。恐らくここなら俺でもダメージを着実に与えられる場所だ。一発入れてすぐに退避するヒットアンドウェイを繰り返してダメージの蓄積と脳の処理をオーバーフローを狙うべきだ。
「永久に幸願い給へ、畏み畏み畏み奉らん。」
そしてこの瞬間にカグヤの呪いが完成する。よし後は奴が崩れ去るまでの耐久戦だ、誰か一人でも生き残れば勝ちだ。卑怯というかもしれないが、これは立派な戦略だ。
『……へえ成程。』
だが、あの呪いをかけられたはずの奴はまだそこで立ったまま、何をされた痕跡もなく突っ立てっているのだ。
『この体は別に呪いを弾く機能を付けていないはずなのだが、効いていない所を見るに、それの本質は呪いではないんだね。そしてもちろん毒でもない。』
何か一人で疑問を持って自問自答し、そして納得のいったような顔をする。
『ああ、そういう事か。だから祝詞だったのか。』
面白いものを発見したかのようにクツクツと笑い声をあげ、歯をむき出しにして破顔している。それとは対照的な顔なのが俺だ。頼みの綱である呪いも効果が無かった、俺個人の戦力はゴミみたいなもので、従魔の力が無ければ十全に戦えない愚か者だ。
(クスクス……だからさっきから力が欲しいって聞いてるじゃない。)
だから俺もさっきからその力をくれって言ってるだろう、今すぐにでもその力は欲しいよ、欲しいさ。あげるあげる言うなら今すぐにでもくれよっ。
「はあっっつ、鬼刃っ。」
コナラさんがもう一度攻撃を仕掛けようとする。先ほどのように鋭く、高速で繰り出される常人なら不可視の一撃だ。だが奴の強化された動体視力と、今まで受け続けた経験則から、奴にとってもうこの一撃は不可視でもなんでも無くなっていたのだ。
『それはもう見飽きたよっ。』
大きく腕を振るう。強力な遠心力の乗った凄まじい一撃がコナラさんの行く先を予想して仕掛けられる。恐らく読まれるのはまだ先だと考えていたのだろう、受け身も取れずに撃ち落された戦闘機のように墜落していく。
「コナラさんっ。」
思わず反応してしまうヤナギさん、そのせいで唱えていた呪文が不完全なものとなってしまい不発動に終わってしまう。
「馬鹿っそっちに反応するなっ。」
いつの間にか口に蓄えられていた火球がヤナギさん目掛けて飛んで行く。防御の呪文詠唱はもう間に合わない、眼前に迫る熱の塊を前に彼女は一歩も動くことができない。
「クソっ。」
攻撃に移ろうとしていたフソク君が助けに入る為に全速力で下がっていく。だったら俺は叩き落されたコナラさんの救援に向かってヘイトを分散させないと。
クソっ、弱すぎる、弱すぎるんだよ俺はっ。
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