6分咲き
そういえば、皆さまはあの時の呪いを覚えていますか。
『なあ知っているかい、このゲームは結構面倒くさい所があってだねえ。』
口からメラメラと燃える火をちろちろ出しながらもったいぶってそう聞いてくる。ああ知ってるよ、結構AIがシステムに干渉するから穴というか抜け道が作られやすくなって仕様の変更が相次いだことがあるらしいな。それゲームとしてどうなのとは思うけどもさ。
『その中に従魔の相続というものがあってね、特定の期間ログインしなくなった場合従魔を他人に譲渡するという機能でね。』
「何が言いたいんだよ。」
もったいぶりニヤニヤしながらこっちを見続ける自称ドラゴンについノータイムで食らいついてしまう。正直さっさとこいつを倒して終わらせたいんだが。いやまあ今のあいつに勝てる自信まあそんなにないんだけども。
『何簡単な話さ、君が萎えて引退するように仕向ければいいだけさ。』
「……頭が逝かれてあそばれる?」
いやいくらボコボコにされたってそう簡単に辞めようなんて思わないけども。子供じゃないんだしさ、それぐらいで辞めるのって結構浅いライト層だけじゃないかな。
『フフフ、今から分かるさ。』
火を上空に向かって吹き出す、これが答えだとでも言うのか。それだとただの火力自慢だけで終わるぞ。
『君って結構堪え性ないだろ。』
「んだとコラァ。」
ああ言っちゃいけないこと言ったね。はいもう怒ったもう怒ったよマジギレぷんぷん丸だよ。……今の子って激おこぷんぷん丸って分かるのかな。
そんなこと考えていると、龍の顔色が段々と悪くなっていくように見えてくる。あれは確実に息を吐くといったものでなく、まさしく吐しゃ物を放り出すための予備動作だ。昔捕まえたカナヘビがあれやって芋虫吐き出したから何となく分かるぞ。
「まさかゲロビやるのかよ、お前品性ってもんが無いのかっ。」
『そんなもの母親の胎内に置いてきたよ。』
喉が段々と膨らんでいく、胃から液体が遡っているのが見ただけでも分かってしまう。おいマジで頭逝かれてるだろアンタ、人としての常識があるならそんなことしちゃあいけないってこと分かるだろうっ。
『昔やったゲームを再現するとこうかな、お゛え゛え゛え゛っ゛。』
「汚えっ。」
マジで吐きやがった。俺らよりはるか高く上がった口元から、黄色く濁った胃酸が迸って辺りに雨のように振りまいていく。やめろ誰もお前の吐しゃ物を受けても喜ばないぞ、ゲロインが喜ばれるのはアニメの世界だけであってリアルはウザがられるだけだぞっ。
「って熱っ。」
シュウと音を立てて付着した部分が溶けていく。これは俗にいう防具だけ溶かす都合のいい酸性物質では……いや肌が熱感じてるからそうでもないか。
『どうやら私の胃酸は殺しきれないようなものらしくてね、まあこれで牢獄を作ったら君だって辞めたくなるだろう?』
怖い、こいつの思考回路がマジで怖い。やろうとしていることがエグい、拷問官にでもなれば出世できるよその性格と思考回路持ってたらさ。
「てか何で痛み食らってるんだよ……。」
『ああ、最近システム貫通できる研究しててね、ようやく成功したのさ。』
「やっぱ逝かれてるよお前ら。」
槍を無意識に構えて戦闘態勢をとる。この体格差と言うのも烏滸がましい程の比較対象に、このちっぽけな槍で何ができるのだろうか。
(……力が欲しいのかしら。)
何かが頭に語りかけてくる。そりゃあ欲しいよ力はよ、欲しくない人間なんていないだろうに。特にこんな状況下であったなら格別だろうに。
「畏み畏みかし…。」
『おや、何か見せてくれるのかい。』
カグヤが呪いをかけようとする。確かに内側から確実に崩壊させるカグヤの祝詞は奴への特効となる一撃になるだろう。問題は奴に効くまでにカグヤがヤラれかねないということだ。情けないけども俺がそれまでの時間を稼がないと。
「餓狼っ。」
すっと横を風が凪ぐ。それは一瞬で最高速度に到達したコナラさんであったことに気づいたのは、奴の頬に傷を作りそのまま二の太刀を打とうとしている姿を目にしたからだ。
「クヌギさん、あんたは別に一人って訳じゃないんだぞ。」
後ろからポンと肩を叩いてフソウ君が双剣を構えて前に出ていく。後ろではヤナギさんが詠唱を始めている。
ああ、…………やっぱり俺って無力なんだ。
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