窮すれば
あともう少しで終わりそうです、多分maybe
「魔術いくよっ。」
「「おうっ」」
霧による幻影によってあれから一方的に攻撃を仕掛けられるようになった。相変わらずすぐ修復する異常性によって致命傷を与えることができないが、それでも確実に着実に奴の体力を削っている。奴の回復能力は損傷した部位を治すものであり、消耗した体力や損失した血液までは回復できないようで、切っていくたびに反応速度が鈍くなっている。
そしてそこにさっきから注入されていく毒の猛攻だ。フソウ君の毒だけでなく俺の武器から排出されている毒も入るようになってきたのだ、アイツの弱点を突いて。
奴の弱点は修復したばかりの部位。どうやら修復の仕掛けは脱皮に近いもののようで、再生したばかりでは自慢の鱗の実力を発揮できていないようなのだ。そのため俺の攻撃でもわずかな傷をつけることができるようになっている。後は狩バチの極意によって強化されている猛毒を体内に送り込めば、後は持続的に体力を奪う状態に持ち込める。
『ああ、いい加減にしないか。頭に血が上ってよく考えことが出来ないじゃないか。』
さっきからいいように攻撃の的となっているトカゲ人が鬱陶しそうにそう言う。魔術に毒に、多岐にわたる攻撃を受けながらもまだ大地に立つ余裕があるというのが結構驚きであるが、こちら側が優勢であることには変わりないだろう。
「いい加減にするのはそっちの方。」
先ほどのように分身したコナラさんが両腕を斬りおとす。またまたすぐに腕を生やすのだが、その再生速度がさっきより落ちてきている。恐らく体力を予想以上に消耗して回復に回せていないのだろう。
『そうだねえ、こっちもいい加減にするべきだ。』
そう言ってアイテム欄から取り出したのはまたもや怪しい液体の入った注射器。だがそれぐらいこっちだって予想してたんだよ。
「貰いっ」
奴が自分に注入する前にその容器を破壊しにかかる。流石にこれ一回の本番ぶっつけ勝負はしたくないので保険としてカグヤの毒鱗粉も撒いてある。経口摂取だったとしても毒素を吸引してそのまま麻痺させる作戦さ。
動きが緩慢だ、正直言っておかしい。さっきから奴は反撃行動を取らなくなった、今まではガムシャラに攻撃へし返そうと躍起になったように暴れまわっていたというのに。まて、何で奴は自分の注射器の向きを理解できているんだ、この幻覚は自身の方向感覚を完全に狂わせるものだ。目も耳も鼻も、平衡器官だって騙す優れモノだぞ。まさか
『へえ、君が最初に気づくんだ。面白いねえ。』
きゅっと細まった瞳孔が確かに俺を捉える、バレた見られた見破られた。奴は今まで反撃しようとしなかったのではなく、攻撃された箇所から何となく方向のあたりを付けていたのだ。そこの感覚だってずらしていた、だけどこれはゲームでどこの部位が切られたかがどうしても分かってしまう。システムにしてやられた、いやそれに気づかせなかった奴が上手だったと考えるべきか。
「お゛え゛っっ。」
強烈な殴りが腹部を抉る。体力が削られていたのは確かだったんだろう、俺が一瞬で落ちていないのが何よりの証拠だ。だが恐らくこのまま俺は落ちるだろう、今腹部に貰った一撃は強烈で、何より痛覚保護を貫通してきやがった。息がつまる最悪の感覚だ、足に力が入らない。強烈な吐き気が腹部から喉元まで上ってくる。ゲーム上俺の口から吐き出されるのは唾液だけだったのがまだ救いだったのだろうか。
『今ここで君を殺すのは簡単だろう。でも私についてよく見てることを称賛して次の姿を見せてから殺してあげよう。』
まだ手には薬液が握られている。フソウ君もコナラさんもすぐにその注射器を破壊しようと迫っている、俺が駄目だったとしてもあの二人なら確実に止めてくれる。そう身勝手な希望を持ってしまう。
『最後に一つ、君たちの心を折るお知らせだ。これは塗布するタイプでね、皮膚に塗るやつなんだ。』
そういって握りつぶす。なんだよ、最初からお前の掌の上じゃねーかよ。
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