蜃気楼
ロベリアの活躍……
今まで忘れてたわけではありませんよ。
『やあやあ!君のお仲間さんじゃあたいした傷つけられなかったよ、やっぱり烏合の衆なんじゃないかねえ。』
「少数精鋭を謳う人無し集団が何を言うか。」
抜刀、そして一息で離れたトカゲモドキへと肉薄する。俺の目ではその動きを追い切ることができなかった。その姿を捉えることができたのは奴と、眼帯を外して目の機能を十全に発揮しているカグヤだけで、俺はその目線を追ったに過ぎなかった。
コナラさんの神速の太刀が奴の首を狙う。俺らの攻撃から他に弱点部位が無いか図るためだろうか、普通の生き物にとっても最大の急所である頸動脈を狙いに向かっている。
「落ちろ、鏡花水月。」
コナラさんがいきなり二人に増える、いつのまに回り込んだのかもう一人の自分で挟み撃ちの形を作っている。まるでお互い鏡に映ったかのように正確なタイミングで、屈み合わせのように左右を逆にして首を斬りおとしにかかる。
『無駄だよ、所詮人の領域を出ない君たちじゃあね。』
すっと刀が肉を裂く、その場所からは鮮血が舞い散りこれからシャワーのように降らせるだろうと普通なら思う。普通なら、だ。奴のさっき見せた瞬間修復能力、あれを凌駕できる術を持ち合わせられているかと言われれば思いつくことが無い。
『ほら、君たちにとって唯一の希望だった首落としも無駄なんだよ。』
ボロっとわずかな肉で繋がっていた首をそのまま腕でむずっと掴んで振り落とす。ボトっと音を立てて自分の首を落とすという狂気的な行い、だがこれから起きることを何となくだけども分かってしまう。奴は狂ってこんなことをしたわけでないってな。
ニョキっという音があっているのかそれともモゾモゾだろうか、首から肉が盛り上がり段々と新しい顔を形成していく。
『こんな感じで自切と再生が可能なのさ、どうだい凡人には到底無理なことだろう。』
「トカゲの自切はそんなに早く治らんぞ。」
少しでも奴の足を引っ張ろうとフソウ君と同時に攻撃に出る、ついでにお小言も追加してね。
「やるぞロベリアっ」
『はい!なんだか登場するの久しぶりな気がしますが行きますよー!』
どうせ俺の攻撃なんて当たらないかダメージが入らないだけだ。だからダメージ以外の所で邪魔をしてやるさ、俺の能力じゃないってことはツッコまないでねっ。
『へえ、煙幕張って目隠しか。随分と古典的というかなんというか。』
「どうとでも言えってんだ。」
辺り一帯に充満させる。今回の標的指定は奴のみ、俺らフィールドワークには一切視覚変化を及ぼさないように設定済みだ。だからみんなからはクリアに見える、見えなくなっているのはお前だけだぜ。
「行くぜ、スネークバイトっ。」
また首筋に、だが今回は氷結ではなく毒を纏った短剣だ。まさしく蛇の一咬み、毒牙から全身を崩壊させる毒液を注入する自然界の殺し屋の術を模倣した強烈な一撃だ。
『おや、そこにいたのか。』
やはりまだやつはこの霧の正体に気づいていない、今まで完全に追いきれていたフソウ君の動きを読めていない。
「毒液注入完了だぜ。」
猛毒が体内に侵入した、この技の元となる蛇毒が誰のものなのか分からないが、そう都合よく抗体を体内に持っているわけがない。後は地道に攻撃を続けて削り殺すだけだ。
「ありがと。」
コナラさんがこっちに礼を言いながらまたさっきとは違う大きめの大剣みたいなものを担いでそのまま走り去っていく。見た目はまさしく出刃包丁、今からトカゲでも調理するのだろうか。
『うーん、見えないというのはなかなかに厄介だねえ。』
出刃包丁モドキによって尻尾が切断される、再生はすぐに行われるだろうがあの形態をしている生き物が尻尾を失うとバランスが取れなくなることは有名だ。よろりと今まで大地を踏みしめていた豪脚がそのまま膝をつく、ようやく俺らは奴に土をつけることに成功したのだ。
『これは流石の私でもキレてしまいそうだ。』
「勝手にキレてろイカレ女。」
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