レプタイル
不味い、オチどうしよう
『いい、実に馴染む。昔からこの体だったんじゃなかって勘違いしてしまうぐらいだよ。』
爬虫類特有の細い瞳孔をさらに狭めて愉悦している。たくましい腕で自身の肩を抱き、その爪を鱗へと突き刺す様に引っ掻いては通らないその肌の強さに喜悦し体を震わせている。
「ハエ男の恐怖の新作主演狙えるんじゃね。」
「いや無理、爬虫類だもの。」
そんな間に俺ら3人は一斉攻撃の態勢に移って間合いを詰めようとする。ヤナギさんは魔法職だから仕方が無いね、しかも今バッテバテだからもっと無理だしね。
「体が大きくなったせいで的が増えてるぜ、五月雨っ。」
まず先頭に躍り出たのは俺、この中で一番低体力低火力ということなのである種のデコイ役として吶喊することにしたのだ。傷でもつけられたら御の字、毒が入り込めばさらに上々というものだ。
鋭く尖った穂先が防御陣形をしかないがら空きの胴体に吸い込まれていく。おいトカゲだったらお腹に鱗は生やしていないだろうな、柔らかい部位だもんなあ。でもやっぱり防御を敷かないというのには意味があるだろう、もしかしてカウンター狙いだろうか。瞬発勝負には自信が無いからあの爪の一撃を貰うだろうな、俺の耐久だともしかしたら一発ノックアウトかもね。
ガキッ、まさしくこんな音がした。柔らかくトカゲにとって弱点であるはずの腹部がまるで岩のように物凄く硬い。傷をつけるとかそんなことができる感じではない、マジで鋼を殴った方がまだ傷跡を残せると思えるよ。
『ああいい、まさしく至高なる肉体っ。これこそ人類が辿りつける最高のステージっ。』
このゲームは例え弱い人間の一撃であったとしてもダメージ計算がなされる。そう例え俺の一撃であったとしても“肌”に攻撃判定が加わればいくら奴が硬かったとしても1ダメージは必ず入るはずなのだ。だが入った感触が無い、エフェクトに効果音そういったものが一切発生しないのだ。
「トカゲのくせして腹に鱗生やしてるんじゃねーぞっ。」
俺の後ろからヌッと体を出して短剣を構えたフソウ君が飛び出して切りつけに掛かる。
「穿て、フロストバイトッ。」
突如冷気を放ちその刃を氷で包み込み、片方の短剣で皮膚を裂くように切り、もう一方でそこに突き刺す様に攻撃を仕掛ける。ブスリと突き刺さったように見えた、だが攻撃を仕掛けたはずの本人が逆に焦ったように短剣をそのまま捨てて、バックステップで戻ってくる。
「……嘘だろ。」
さっき突き刺した地点の傷口がみるみるうちに修復されている。突き刺さった短剣は治っていく肉体に押し出されるように排出され、そのまま地面へと落ちていった。
『ふうむ、傷はつくのか。耐久値の上昇が今後の課題だろうか。』
もう俺らには興味が無いのか、その目は自身の体とコナラさんだけに向けられていた。舐められている、俺らに対して抱いている感情はそこらへんを飛んでいる蚊程度のものだとでも思っているのだろう。だが実際そうなのが現状で、いくら油断しているからと言って俺が攻撃に出たとしてもどうにもできない。それがたまらなく悔しい、こいつは俺の仲間を奪った張本人だというのに。
『ほら、君のお仲間さんだと話にならない。君が来ないと始まらないじゃないか。』
ギリッ、歯を思いっきりかみしめる。これでも少しは戦えるようになってきたと思っていた。少なくとも死ぬことは無くなっていたから俺だって成長しているのだと思ってた。
でも違った、強者と戦っていなかっただけなんだ。俺の刃はあいつに届かなかった、これが一人だけの戦闘だったら今ここに立ててることすら出来ないだろう。
コナラさんが刀を抜いて奴と一騎打ちの形に入る。俺はただ、それを黙ってみていることしかできなかった。
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