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奴がやってくる

あれえ、おかしいなあ。もうそろ終わる想定だったはずなのに。

 「ありがとう、カグヤ。」

 頭にポンと軽く手を乗せて撫でる。カグヤはされるがままで撫でられ続ける。その間にもボトっという音を立ててもう一匹の衛兵がその命を落としていった。

 「へえ、結構強い呪いだねぇ。」

 興味を示したのは白蛙、全くの無関心なのは以前受けたことのあるコナラさん。それ以外の二人はもう引いている状態である。ただここで化け物だとか気味が悪いとか、そういったことを言わない辺り大人な人たちだよ本当に。

 「今はそんなこと気にしてないで捕まえるのが先。」

 呆けている二人をコナラさんが注意する。目の前の防壁が無くなったわけではないが、目先の障害は取り除かれたのだから行動に移らなくてはならない。城壁から出てきた衛兵を叩いたのだから、今やるべきはこの壁をどうやって突破するかなのだが。

 「流石に殺戮の限りはさせたくないですからね。」

 この量を殺すのは自然的にもカグヤの教育や精神面的にもよろしくない、流石にそれだけはさせたくないというのが親心というものだ。

 「流石にそこまでやらせるほど腐ってない。」

 そう言って懐から木刀のようなものを取り出した。いやあれは確かに木刀だね、高校の修学旅行であんなの買って教師に怒られたから今でもすぐに形状を思い出せるからな。

 「その木刀で何するんですか。」

 「見てて。」

 純粋な疑問をぶつけるとただ見ててという言葉が返ってくる。その木刀を手にもって上段に構え、竜巻のように飛び回って一等星を隠そうとする群れの中にそのまま突っ込んでいく。

 嵐の中に突っ込んだらどうなるだろうか、普通だったらその中を飛んでいる飛翔物体に体表を削られて肉塊になるのがオチだろう。今回のが例え虫の大群であったとしてもだ、あの速度で動き続ける魔物の群れにあれで入り込むのは自殺と同義だろうに。そういうことが分かってなお行っているのだからやはりあの木刀には何か意味が在るのだろう。

 「うわっ……すご。」

 何が起きたのか、サアとモーセがかつて海を割ったようにテントウムシの群れはコナラさんの位置を中心に避けるように飛ぶようになった。いやどちらかと言えば海幸山幸の話の方が近いかな、まあどっちでもいいか。

 「この木刀のもとになっている木は虫が嫌う臭いを出す、だからこういう時によく使える。」

 なるほど、ようはハッカ油みたいなものなのねそれ。なんだかすごいものが途端に身近なものに見えてきたな。あ、そうそう気をつけて欲しんだけどハッカ油って結構生き物に害あることが多いから、ペット飼ってる人は大丈夫かどうか調べてから使ってくれよな。

 「さあ星を手に入れに」

 「入れられると思っているんだねえ。」

 油断していたつもりは無かった。談笑しながらも近づく者が無いか気を張っていたし、なによりさっきからずっとダンゾーが自身の糸を使いながら周囲の索敵を行っていたのだ。辺りには大量の蜘蛛糸がばら撒かれており、少しでも近づけばその瞬間に気が付くはずなのだ。

 『ダンゾーが死亡しました、次の復活まであと 23:59分』

 突如目の前に流れるテロップ、死んだ……ダンゾーが?

 「あの蜘蛛の主は誰だい、なかなかやるじゃないか。」

 「……っつ。」

 頭に血が上る、ブチっと血管すら破ける音が聞こえるぐらいに。やりやがったなこんちきしょうが、その腐れ頭を体とおさらばしてやろうかっつ。

 槍を構えて走り出そうとする俺の体を誰かが抑える、離せ放せはなせっ。あの野郎の顔を歪めないと気が済まないんだよ。

 「落ち着いて、よく見て。」

 コナラさんがそういって抑制してくる。怒りで視野の狭まった目がようやく外を見ようとする。あの腐った心根をしたやつの後ろからゾロゾロと武装した生物たちが出てくる、あのまま殴りに言っていたらあいつらの餌食になっていただろう。

 「私だってアイツには怒りでどうにかなりそう、だけど目先のことに囚われないで。」

 頭に冷水を浴びせられた気になる、それと同時にすうと頭に上っていた血も治まってくる。

 「すいません、迷惑かけました。」

 情けないな、自分の感情も制御できないとは。家族同然の子がやられたのだから怒るのは当然だが、その激情を制御できないのであれば獣と同然でしかない。

 「……ここはムカつくけど白蛙、貴方にシリウスの捕獲を任せる。」

 「しっかたないっすねー、任されてあげるか―。」

 そう間延びさせて答え、白蛙はその裂け目のなかに突っ込んでいった。その後を追わせるように奇妙な形をしたやつらも突撃しようとするが、それを俺らで押さえ込んだ。

 「あんたを今ここで叩き潰す。」

 「怖いこと言うねぇ調査隊ごっこさん。」


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