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畏み畏み畏み申す

祝詞わかりません。

 何故カグヤがあの時眼帯を取ったのか、それだけは未だに分からない。けれでもあの動きのおかげでホシを見つけ出すことができたのは確かなんだ。嗤えるだろう、だって一等星の名前を冠しておきながら集団の中に埋もれてしまうような奴が崇拝されているのだから。

 「おい、なんだこの数はよおっ。」

 ようやくシリウスの発見に成功した俺たちは奴を捕獲するべく、一斉に駆け出して近づいていた。回りには他の生物も多くいたが、今はそいつらに注視している暇はない。瞬発力に自信のあるコナラさんと白蛙が揃って最高速度に達して一気に近づこうとする。

 その瞬間辺り一帯から今まで静観していたテントウムシたちが一斉に飛び立って進路を塞ぐように集団を作っていく。

 「……初めて見る行動、今までこんなことは無かった。」

 「フィールドワークが見たことないなら本当にレアなんだろうねえ。」

 春の嵐によって吹きすさぶ桜吹雪のように、いやそんなにきれいなものでは無いな。どちらかと言うと砂嵐の走っている砂漠のほうがあってるだろう。だって目の前を掌以上の大きさを誇るテントウムシが団塊になって目の前を飛んでいるのだもの。一匹でいるのなら可愛らしいで済む容姿であったとしても、ここまで群れて飛ばれると気味が悪いを通り越して最早キモイという純粋な罵倒しか出てこない。

 「まさか、シリウスを守っているのか。」

 一等星の存在がもし群れのボスの立ち位置だとしたら、蟻で例えるのなら女王蟻のようなポジションだとしたらどうだろうか。回りの衛兵が飛び出して無粋で無礼なる侵入者を極端なまでに拒み、そして排除しに出てくるだろう。

 「……やっぱりそうきたか。」

 飛び回っていた中から数匹、体格のしっかりとして背中の甲殻が重厚な作りになっている個体が飛び出してくる。兵アリのようなものなのだろう、群れにやってきた異分子を排除する為に筋肉が発達した個体だというのなら納得できる体のつくりだ。

 「どうしますか。」

 「強行突破。」

 コナラさんに聞くとなんともワイルドな答えが飛んでくる、いいねえワイルドだねえ。所でワイルドな人ってどんな人なんだろうね、自称ワイルドなら見たことがあるんだけどもさ。

 「切る、鬼殺しっ。」

 赤黒いオーラを取り出した刀に宿して一匹に切りかかる。コナラさんの太刀筋はとても鋭利で恐怖を覚えさせるほどに冷たかった。死を届ける刃がまだ滞空して威嚇を続ける一匹を引き裂こうとする、がその刃は途中で食い留まることとなる。

 「……嘘、これ防御貫通技なのに。」

 コナラさんレベルの攻撃が通らない個体、これ俺らどうやって戦えばいいんだろうか。

 いやまあ方法はあるんだけどさ、皆の前でやらせたくないというか見せたくないと言いますか。ワンチャンカグヤへの視線が変わってしまう可能性があって正直その道に舵を切りたくない。でもこれ相手にしている間にラボの連中が上がってきたら横取りされる可能性が凄まじく高くなる。

 「クッソ、硬ってえ。」

 フソウ君もすぐさま切りつけるが、彼の短剣では表面に傷をつけるだけで実質的なダメージを与えられない。多分俺が攻撃しても衝撃だけ与えて後は何も変化が無いだろう。

 「魔法は」

 「駄目、こっちも効かない。」

 物理も魔法も駄目、残された手札は耐久戦かそれとも。

 「カグヤ、頼めるか。」

 頼むしかない、心で謝りながらカグヤにそう聞く。それだけで何をして欲しいのか察してくれたカグヤはこくりと頷いて呪言を空へと放っていく。

 「畏み畏み白す、此度の幸たる戒め事の成させ給へと祈り奉る。」

 スラスラと今まで唱えてこなかった、否唱えられなかった呪文だ。言葉を習得したことによってその言の葉を紡ぐことができるようになったのだ。

 「永久に幸願い給へ、畏み畏み畏み奉らん。」

 途中何度か詰まりかけながらも祝詞を上げ切ったカグヤ、その時間は以前PKに襲われたあの時間よりもはるかに短かった。

 ギギギ、鈍く嫌な音が周囲に響く。今まで前を飛んで防ごうとしていたテントウムシの節目からなっている音だ。その音は段々とギチギチというものに変わって、黒くねばついた液体をそこから外へと放出している。

 「ひっ。」

 ヤナギさんの引き攣った声が聞こえる、無理もないだろう。テントウムシは藻掻きながら体の不調をどうにかしようとする、けれどもどうにもできない。黒い液体は芋虫となってその体から這い出して、そのまま身を喰らっていく。体外の攻撃には絶対な自信のあった彼女らも、体内から食い荒らされては守る事も出来なかった。

 皆が静まり返ってその光景を凝視する。辺りを埋め尽くす音はただまだ飛び続けてるテントウムシの羽音だけだった。


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