ほうき星を探して
見えないものを見ようとして
「あれも違う、これも違う。あれに至ってはダマシだし。」
あの場を無かったことにしたいらしい白蛙の願いもあってか、お互いそこには触れないようにまた捜索を続けることにした。岩場はあんまり満足には捜索していなかったが、あの戦闘音によって大半の魔物は逃げ出してしまったので探すだけ無駄だろう。そういう事もあって岩場から離れた松林に来ているのだが、そこらを飛んでいるのはやはり2つ星以下のテントウムシと、テントウムシダマシだけであった。
「こらダンゾー、食べようとしない。」
腹が減り始めたのだろうか、糸を出して腕に付けてカウボーイのようにブンブンと振り回している。そういえば今日はまだ狩りをしていなかったな、それを思い出して準備期間中にストックを増やしておいたキャタピラーの血抜きしたものを取り出す。こらこらお前たちそう急かさない、ちゃんとみんなの分あるんだから。
「うえっ。」
美味しそうに食べるダンゾー、そして欲しがるカグヤ。その姿を見て気持ち悪くなっている人がいる、フソウ君だ。多分あれは昆虫食に対してでなく、キャタピラーを食べるという所から来ているものだと思う。彼もまたあの体液の被害者なのだろう、そうじゃなかったらリアルで芋虫に何かされたのか。
「食べてみるか、美味いぞこれ。」
カグヤにも切り身を渡しながら自分も口に放り込む。程よい甘みとプリプリとした食感が舌を喜ばせる、リアルだと甘エビに近いだろうか。醤油とかかけて焙ったらさらに美味しくなりそうなんだけど醤油ないんだよなぁ。
「遠慮しとくぜ。」
食い気味で遠慮するフソウ君、あああの臭いがトラウマなのだろう。まあ普通あんな激臭のした生き物食べる奴っておかしいわな、俺だってあの婆さんが食べ方教えてくれなきゃ一生口にしなかったと思うし。
「私はちょっと欲しい。」
だがコナラさんは違った。恐らくあの体液の雨を浴びたことがあるはずだというのに、チャレンジ精神を心に宿した彼女は口にしたがったのだ。
「ええどうぞ。」
そう言って同じように切り身にした部分を手渡す。その身をしげしげと眺めて臭いを嗅ぎ、そのまま口に入れる。咀嚼してそのまま飲み下した辺り不味くは無かったらしい。
「クヌギさんー、私も欲しいっす。」
「お前昆虫食大丈夫なのか。」
白蛙も名乗り出る、正直お前がこの話題に食いつくとは思っても無かったぞ。
「あ、エビみたいな味する。」
しかもちゃんと味分かるんだな、俺でも最初の一口躊躇ったって言うのにさ。あとカグヤ、もうお終いだぞそんなにグイグイしたって上げないぞ。これカロリー高いらしいんだからな。
「しかし、ここにも例の一つ星はいませんね。」
俺らの行動を静観していたヤナギさんがここで口を開く。本題から逸れかけている俺らを戻そうという働きかけなのだろう。まったく誰だ脱線させたのは、はい俺です。
「さっきの奴らも上に登ってきてましたし、もう山は確定だと思うんだけどな。」
恐らく相手もまだ場所を把握できていない。それにフィールドワーク率いる援軍によって外周部でも戦闘が発生しているから思ったよりも進めていないのだろう。時間的にも立地的にも猶予があるのは俺たちだ。だからと言ってゆっくりはできないけども。
「今は富士山三合目辺りの標高なんですけども、ここにいないというのは気温的に厳しいんじゃないですかね。」
ここより上に行けば植生も変わってくる、植物が変わるということはその場の気温などの条件が一気に変わるという事でもある。虫のような変温動物がそのような場所に行けるのだろうか。そんな話をしていた時だった。
「あれっ、あれっ。」
普段隠している眼帯を外したカグヤが指さす。右の目が全て一点を見つめており、そこにいる何かを凝視しているのだろう。すぐに双眼鏡を取り出してその場所を見る。
「いたっ、見つけたっ。」
「マジか。」
背負っていたのは一つ星、まさしくあれだろう。ようやく見つけた、それもそこまで離れていない場所で。
「急いで、奴らがまた来る前に。」
コナラさんが先陣を切る、慌てて俺らもそれに付いていく。俺の心の中はこの時点でもう勝利を確信していた。そう確信していたのだ。
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