シリアルキラーの実力
一応ストックの範囲内では終わりが見えてきました。
次章は番外編か、七夕をモチーフにしたものを書こうと考えています。
「多分大丈夫だと思う。」
駆けだそうとした俺に対して冷静に、まさしく冷たく静かにそう声を掛けてくるコナラさん。この言葉の裏には味方への絶対な信頼という感情は見受けられず、どちらかと言えば他の誰か、この場では残っている一人である白蛙を指して言っているのだと何となく分かる。
「そんなに強いんですか。」
俺はこの世界での白蛙の強さを知らない。リアルでのあいつは別に格闘技をやっているわけでもないし、アウトドアな趣味を持っていたわけでもない。まああの体形だから海とかプールに行くとどうしても目立つし、運動中周りの視線が鬱陶しいとか言っていたからまあ仕方が無いんだけどもね。
「……昔戦ったことがある。」
「あっ。」
なるほど、なんかあまり良くない空気感だと思ったらそういう事だったのか。普段は飄々としてクールなコナラさんにも、どこか子供っぽい部分があったなんてな。
「それで、どっちが勝ったんですか。」
この喋り方から何となく察してはいるけども、どんな感じで負けてしまったのかは少し知りたかったりする。亜紀がどんな感じのプレイスタイルでこのゲームをやっているのかが知れるからな。さっきからなんかはぐらかされてたからコナラさんからしか聞けそうにないし。
「多分今から見に行ったら分かると思うよ。」
そう言って岩から飛び降りていく、いやこの高さは足首を捻りそうでちょっと怖いな。そういえば昔じっちゃんの山で友達を遊んでた時にこんな感じで飛び降りて捻挫したなあ、あんとき一緒にいたのって誰だったか。まあ今そんなこと思い出したところでしょうもないだろうから。
岩場に生えた苔に気を付けながらも早めに合流できるように足を速める。つるつると滑って歩きにくい、皆もこうやって岩場を歩く時は滑りにくくグリップ力のある靴を履いて転ばないように気をつけて歩くんだぞ。
「ほら、あれ見て。」
何個も大きな岩を乗り越えたり迂回したりして辿り着いた先には、ナイフを両手に持って暴れまわっている死神がそこにいた。あの黒く丈の長かった服から受けた最初の印象通り、今彼女は回りに死を振りまいていた。
唖然、まさしくその文字通り。開いた口がふさがらない、なんだあの荒々しい亜紀は。ゲームだとあんな感じになるのか、これはちょっと印象変わるだろうな。沼河童に見せてやりたい姿だ、この姿を見ればもう流石に手を出そうなんて思わなくなるだろうから。
「何でお前がそっち側に付いてるんだっ、俺らと同類だろっ。」
今にも切りかかれそうになっている男が手を前に出してそう喚く。命乞いにしては斬新で相手の神経を逆撫でにするだけというのは逆効果だろうに。
「あー、今ここでそんなこと言っちゃうんすねえ。」
俺が合流したことに気づいたのか、ちらっとこっちを一瞥して目線を外す。
「……語尾が変わるんですね。」
ぼそっとヤナギさんが魔術を放ちながら何か言っている、悪いな君が出してる爆発音のせいで何言ってるか分からないんだ。
「せんp……クヌギさんこっち見ないで貰えるっすか、ついでに耳もふさいでくれると助かるっす。」
うーん、暴力的に育っちゃって。もう俺にそういうの要求してる時点で何するか分かっちゃったよ。言われたとおりに目を瞑って耳をふさぐ。回りから聞こえるのは魔術の爆発音のみで、それ以外の音は貫通してこない。
「さて、何するか分かってますよね。」
「……ひっ。」
血の滴る短剣が男の目に近づいてくる、頭を打つなんて生易しいものでは無い。その目を刳り抜こうとする残虐で容赦のない行い、ここがゲームの世界で無かったなら男も泣いて喚きながら許しを乞うていただろう。
ただそうであっても眼前に刃物が迫って来れば恐怖するのが人間で、今から走ってくるものは幻肢痛であって本来の器官が傷つくものではないと分かっていても痛みを想像してしまう。恐怖というものはなんとも不条理なものだ。
「ファントムペイン」
白蛙がスキル名を呟く。イカレタ野郎御用達のドSスキル、強制的に痛覚機能をONにさせて痛みを味合わせる運営の脳を疑う最悪のスキルだ。
「やっ、やめろっ。」
「ねえ、美味しい。」
男の口に抉り取った目を放り込む、口は痛みによってパクパクと開いては閉じる金魚のように動きており、そのまま自分の目をかみ砕いてしまう。
シリアルキラー、新月の切り裂き姫、色々な名前で呼ばれた最悪のプレイヤーキラー、今彼女がこちら側にいることに疑問と安心を覚えざるを得ない。それがコナラ達の総意であった。
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