猶予不明の捜索戦
なんか初期パロット以上に話数が多くなっています。
ダレないようになるべく早期に終わるよう調整しておきます。
「……いやあ、いきなり生き物の数が増えたな。」
小屋を出て僅か数分の地点で、もうその感想が出るほど辺りは生命で満ち溢れていた。この山岳地帯にこれほど集まる異常事態の原因を考慮しなければどれ程この空間でずっと過ごしたいと思えただろうか。さっきから木々を忙しなく小鳥たちが移動していく、それに伴ってか辺りを羽虫が驚き逃げ惑う。
捕食者も被捕食者も関係なくこの大量殺戮から逃げ、互いの領域に入り込んでいる。その結果なのだろう、辺り一面に振りまかれている混沌は。
「あれは……三ツ星かな。」
背中に黒い星の模様を携えた赤くポピュラーな体色をしたテントウムシが辺りを往ったり来たりと飛び回っている。その速度はあまり速く見えない、あまり移動に長けている種族では無いのだろうか、それとも個体差があるのだろうか。
「たださっきよりも遭遇率は上昇している、か。」
本当さっきまで見かけたのはごく数匹の生き物たちだけで、テントウムシ自体見かけていなかった。また目の前を他のテントウムシが飛び去って行く。これは四つ星だな、さっきの個体より遅い。
「……もしかして星の数とステータスが比例しているのだろうか。」
背負った星の数が少なければ少ない程、その力が増していくとかいう設定でもあるのだろうか。もしそうならある一定以上の星を持った個体はここまで来れていないだろう、一旦星の数も頭の中に入れておこう。
でもコナラさんたちはそんな特徴がある事なんて話していなかったしなあ、もしかして追い詰められたりしたときに効果が出る系なのだろうか。
そうこう考えながら辺りを見回すけども、この中に一つ星のテントウムシは紛れ込んでいないようだ。さっきの仮説が正しいのであれば、もっと先の方へと避難しているのだろうか、それともその速度への自信からまだ内周部に留まっているのだろうか。
「まあ今はそっちまで思考を広げる必要はないだばっ。」
言い切ろうとしたときに、強烈な衝撃が俺の背中を襲った。軽トラックだとか相撲取りの全力タックルだとか、そういったものだと言われても信じてしまうだろう強烈な衝撃。痛みが無い分なんだかとてもおかしい状態だ、こう振動だけが体内で渦巻いているような感覚というかなんというか。
この間僅か1秒、思考に全部持って行った体では受け身を取る事が叶わない。そのまま顔面ヘッドスライディングを大地に決める。うーんアウト、スリーアウトチェンジ。
「馬鹿やろう、俺がもう一回攻撃じゃあ!」
勢いのついた体でそのまま前転、リアルじゃもう無理な動きをして立ち上がり、突進してきたヌシに槍を構えて対峙する。突っ込んできた猛獣の姿は猛々しく、体中の筋肉は隆起して躍動している。そして生えている二本の牙が、ただでは返さないという心意気を感じさせる粋な計らい、運営はもう少し可愛げというものを学んだほうがいい。
そう、こいつはさっきあの沼田場で体中を擦り付けていたイノシシだ。凄く興奮している所から、無意識のうちに縄張りに踏み込んでしまったのだろう。もしくは一度攻撃を受けて気が立っている状態のときに不用意に近づいてしまったのかだ。
野生のイノシシは恐ろしい。突進力にさっきも説明した鋭い牙、この牙によって病院送りにされる人は少なくない。ウリ坊の頃は丸っこくてふわふわしていて可愛いんだけどなあ、何であんな狂暴なフォルムになるんですかね。
さて、ここはひとつ穏便に行きましょう。ここで戦闘した場合、辺り一面に張り詰めた緊張の糸を刺激して、大混乱を巻き起こす可能性がある。そのためいきなり逃走することも危険を伴う。
どうすればいいのか、それは意外と簡単なことだ。すっと穂先を前に構え続けたままそろりそろりと間隔をあけるように下がっていく。目は合わせない、自然下では目合わせは喧嘩上等の合図である。とにかくこっちにはお前を傷つけるものがある、でも戦う意思はないという状況を伝えながらゆっくりと逃げるのだ。
「……ふう。」
30メートルほど離れた辺りで警戒をある程度は解いたのか、ずっとこっちを睨みながらも、追うことは止めたようだ。
はあ、二回目のため息が出そうだ。予想以上にここだけで時間を食ってしまったからな。
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