三人いれば
派閥ができる。
『…ザーー、ブッもしブッ、ザー。』
待機を決定してほんの数分後、連絡機からノイズと共に声が流れ出す。砂嵐が酷すぎて何言っているのか、誰なのかも分からない。でもこの範囲で尚且つ連絡機を使っているのはコナラさんぐらいだろう。
「もしもしコナラさんですか、今どちらに。」
『ザーー、ブツ。』
何を伝えたかったのか、何を言っていたのか分からないまま通信が途絶えた。恐らく使い物にもならない状態まで損傷しているのか、ジャミングの範囲を連絡機にまで広げたのか。どちらかかは分からないけども、兎に角無事のようで何よりだ。
「無事なのは分かりましたが、これからどうしますか。」
さっき立てた予想から競合相手が登山活動を開始するのも時間の問題で、恐らく物量的に向こう側の方が上、増援を求めようにも連絡できない状態から短期決戦が望まれる。
コナラさんの位置は現状不明。もしとても近い範囲内にいるのであれば合流は容易いだろうけども、これが真逆の外周部周辺であった場合どれだけ早く、まさしく空を飛ぶぐらい駆け抜けられるとでも言わない限りそれなりに掛かってしまうのが問題だ。
この山は広い、四人で捜索したとしても時間が掛かる。今は例え少しの範囲でも調査すべきだろう。そしてもし探索を行うなら、最適任は俺だろう。
「待ちたいけど、いつ来るか分からない以上動きたさはあるな。」
フソウ君も同意見だったようで同じ意見が出てくる。けどヤナギさんの表情は芳しくない、恐らく最悪の場合を想定してまずは戦力の再編成が必須だと考えているようだ。
「賛同できませんか。」
「ええ、コナラさんがいない以上勝手な行動は出来ないかと。」
やはりな、正直そっちの方が正しいと思う。あのムカデからして俺ら三人だけだと勝ち目は無いけども、コナラさんさえいれば勝機は5分を超えるだろう。
「だったらどうです、コナラさんが合流するまで私が単独で動きます。」
だって俺戦力に入ってないだろうし。恐らく戦闘になったら何も出来ないだろう、だったら今動けて鉄砲玉になれる俺が動いて予め予想を立てておくべきだろう。
「それも駄目、今連絡網が構築できていない状態で分断されたらどうするの。」
ごもっとも、チャットが封じられている状態でもし山小屋側が襲撃されたら俺だけが孤立してしまうことになるだろう。
「でもその時点で私たちは全滅、やはり一人だけでも別行動をとるべきでは。」
何度も言うように俺は戦力にならない、小屋に襲撃が来た場合迎撃に回ったとして役に立つのはカグヤやダンゾーくらいだろう。
「カグヤ達をここに待機させて迎撃要員に回します、私がいるより戦力になるはずです。」
俺も何を焦っているのだろうか、普段言わないようなことまで口に出る。いつもの俺なら、実の子供のように可愛がっている従魔たちをここに残す等の言葉すら出てき始める。
「貴方一人探索に出たところで何も変わらないでしょ、意味が無いことをすべきじゃないと言っているのっ。」
「それでもある程度場所を絞る必要はあるでしょう。」
互いに語が強くなり始める、なまじ互いの言っていることが正しいだけに、どっちも引き下がることができないのだ。俺はある程度の要素を先に見つけておきたい、ヤナギさんは全員で確実性を求めている、この状況下ではどちらも正しいのだ。
「……俺はクヌギさんに賛成するぜ。」
舌戦の最中、今まで口を閉じていたフソウ君がそう呟く。意外なところからの援護射撃に少し驚きながらも感謝する。
「……何故か聞かせて欲しいんだけども。」
一方ヤナギさんは心穏やかじゃないだろう、実際怒りを覚えながらもまだ何とか冷静さを保ちながらも怒気を隠せず聞いてしまうのだから。
「ぶっちゃけクヌギさんはそこまで強くない、最悪足手まといになる可能性がある。」
「それはさっきも聞いた、それを考慮したうえで」
「だから俺らもすぐに合流はできる。」
「でも連絡手段が無いじゃない。」
さっき俺としていた議論を、今度はフソウ君とし始める。
「あるぜ、連絡手段。」
だが違ったのは連絡手段への反論だった。一体何があるというんだろうか。
「頭いいお前が気づかないなんてよっぽど頭回っていなんだな。」
そう付け足して指さしたのは暖炉、そこに敷かれている薪だった。まさか狼煙で連絡を取るというのだろうか。
「俺らはコナラさんが来たら火を焚く、クヌギさんはそれを見るか目標を発見したら焚く。これなら大丈夫だろ。」
やはりか、自信満々なのはいいけどもそう簡単に黒煙出せないぞ。
「……それなら。」
ヤナギさんが納得した。いやマジで、その案でいいんだ。いや探索案通ったのは嬉しいんだけども。
「これ、火を付けると一気に黒煙を上げる炭、火事でもあったのかってぐらい出るから吸い込まないように気をつけてくださいね。」
そう言って真っ黒い塊を渡してくる、成程、それなら安心ですは。
「……すいませんムキになってしまって。」
流石に気まずくなってきたので謝罪する。いやだってねえ、流石にちょっとダサイからな。
「…いえ、私も少し頭が回っていなかったので。」
そういってちらっとフソウ君を見る。さっきからどや顔を続けていて、よほど自分の意見が正しかったことが嬉しかったのだろう。そんなフソウ君を見つめるヤナギさんの顔は苦渋に満ちているけども。
「本当に気をつけてくださいね。」
「ええ、そっちもカグヤ達のことお願いします。」
久しぶりの別行動、待機命令を出して小屋を出る。さあ頼れるのは己の槍と体のみ、精々有益な情報を持ち帰れるようにしよう。
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