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空気読み

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 『いや、ちゃんと起きてますよ。』

 瓢箪から陽気な声がさっきの評価を取りやめるよう訴えかけてくる。いやだって、お前さっきから一回も喋りかけてこなかったじゃん。

 『いやいや、私だって少しは空気読めるんですよ!?』

 「どういうことだよ。」

 空気読めるんだったらそもそも最初会ったばっかの頃にマシンガントークなんてやらないぞ。

 『そういう事じゃなくてですね、シリアスな場面ぐらいちゃんと分かってるって意味です。』

 「ナチュラルに人の心を読むな。」

 まあ確かに、ムカデに追いかけられて必死に逃げ、その先で猿軍団に囲まれ敗北の危機に陥りかけた。そんな状況でいつものようにおちゃらけた感じで話しかけられる奴は少ない、というかそう言う奴は基本回りの状況を見れる余裕が無くなっている場合が多く、そいつ自身が落ち着こうとするために無理矢理明るくふるまっているパターンだったりする。

 「で、今までの戦闘お前の霧でどうにかできたんじゃないのか。」

 『いやあ、猿は出来たかもですが、あのムカデは無理ですね。』

 なんでもあのムカデは自然の範疇に存在しないらしく、感覚を狂わせるロベリアの技も効き目が薄いのだという。なんだ、頭の中にレーダーでも埋め込まれているとでもいうのだろうか。

 『まあそんな感じだと思いますよ、細かくは分かりませんけども。』

 「だから心を読むなと言っている。」

 段々開けてくる藪を掃いながら道を行く、偶に出てくるヒルが吸い付いてきては体力を持っていかれるのが正直言ってうざったい。お前ら吸っていったんだったらちゃんと何かで返しなさい、一宿一飯の礼だぞまったく。

 「ヒルに言ったところで分かるわけないか。」

 おかしいね、蛤が普通にしゃべるのに。でもヒルが喋り出したらそれはそれで恐怖の塊でしかないけども。

 「て、おっとと。」

 道が急に滑るようになってきた、足元の岩にコケが生えていて、さらにそれが湿っているのだ。これは降りておいて正解だった、セレストが滑ってそれに下敷きになったらまあまあのダメージ負うだろうし。それ以上に脚が危ない、折れてしまったら大変だからな。

 「カグヤも気を付けなさい、足元危ないからね。」

 「うんっ!」

 今日も娘は可愛いです、ニパって笑顔は心を豊かにしますね。

 

 

 「……派手にやられましたなぁ。」

 死んだように倒れているムカデの側で、朽ちかけた老木を想起させるような老人が一人、慈悲のかけらもない目でその体の惨状を眺めている。回りの悲惨な景観には一切目もくれていない辺り、この男もまた奴ら側なのだろう。

 「して、貴様はこれからどうする気じゃ。」

 そう声を掛ける先には、先ほどコナラに首を落とされた少女の顔があった。文字通り、そこに顔だけがあった。

 「……申し訳ございません、所長。」

 顔が喋った、首から下が存在しないというのに。何処に声帯があってどこから空気を送り込んでいるのだろうか、一切説明が付かない。

 「わしが聞いたのはこれからどうする気じゃろうて、謝れなど言っておらんじゃろう。」

 そうまるで子供にやさしく語りかけるような内容でありながら、その声音はカミソリよりも鋭く、氷よりも冷たい。この声を聞いて謝るなという方が無理があるだろう。

 「……奴らより先に手に入れて見せます。」

 「ほう、そんなにボロボロにされる程一方的に負けたというのにか。」

 ああいえばこういう、確実にこの老人機嫌があまりよろしくないのだろう、どんなに弁解しようとしても一切聞き入れる気が無さそうだ。

 「私がやられたのも、奴の一回きりだけの技を喰らったせいです。もう次はくらうはずがありません。」

 だがそれでも弁解と払拭を続けようとする。その必死さといえば、花瓶を割った小学生だってここまで必死じゃないだろう。

 「そこまで言うからには失敗なんて許さんぞ、よいな。」

 「はい、構いません。」

 そういって顔は崩れ去る。後に残されたのは焼け落ちた木と老人だけだった。


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