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一手

おかしい、全然話が進んでいない。

 おかしい、さっきまで攻勢に出ていたのにいきなり回避に専念し始めた。その行動を訝しんでその意味を理解しようと脳をフル回転させるが、出てくる答えは毒のスリップダメージによる撃退のみである。

 この被験体8号もとい改良型攻城兵器MKⅡはスリップダメージを抑える為に大量の耐性を盛り込んだ最強生物である。寒冷地でも行動でき、何ならマグマだって短時間なら耐えることができる。毒に対しても絶対的な耐性を付与していて、あの程度のもので倒せる程軟に作っていない。

 勝負はもう決している、それも私の勝利でだ。だというのに、何故こうもモヤモヤしているのだろうか。あの女が効かないと分かっているはずの攻撃を繰り返しているからか、それとも何か本質的なものを見落としているのだろうか。

 いや、ありえないな。こいつは私の最高傑作と言えないにしても、それなりのスペックを誇る我らラボの決戦兵器。たかが人間一人、それもオカルトちっくな武器一つに負けるほど柔な作りをしていない。これはいつもの悪い癖が出ているだけだ、未知のものへの警戒心が強くなりすぎるという悪癖がな。

 「……やりなさい、徹底的に。」

 この癖とはここでおさらばしてしまおう、副団長をヤッたともなればこうも臆病な自分というのは鳴りを潜めるようになるだろうから。

 さっきよりも鮮烈に、苛烈に、徹底的に潰しにかかる。毒の散弾ではなく雨を振らせよう、この一帯を死の大地に塗り替えてしまおう。我々人類こそがこの地上の支配者であることを再確認させてやるんだ。


 

 「……やりなさい、徹底的に。」

 かかった、相手はもう焦れたようで今まであったリスク回避を行わずに徹底的に攻撃を加えるようになった。

 相手の性格は何となくわかる、必要以上にリスクを危険視して慎重になるが、そんな自分が一番嫌いという自己矛盾を抱えてしまっているタイプだ。積極的になれない、だけど一度は自分から行動してみたい、主導権を握りたいといった願望を胸中に秘めている、それが彼女の本質だ。

 だから今回は私がかえって消極的に動きを変えた。何故か、それは相手からしたら自分を変える千載一遇のチャンスになるからだ。つまり今まで必ず奥の手を見せず、安全択を取り続けた相手が無理をしてでも私を倒そうとする状況を作り出せるという事なのだ。

 現に辺り一面に毒をまき散らすだけで良いのに、わざわざ物理攻撃を加えてまでして私を確実に倒そうとする。そう、自分の命令で、自身の判断で、ハメ技でもスリップダメージでもなく純粋な攻撃で私を倒そうというのだ。

 それに倒した姿を見たいのか、さっきよりも前目に移動し始めている。本人が無意識なのかもしれないが、傍目から見ればはっきりわかる変化だ。そうそうそのまま、できれば首付近まで近づいてくれると助かるな。

 「クフフフ、私だってやればできるんだ。今まで苦戦し続けたフィールドワークの副団長だって追い詰められるんだ。」

 勝ちを確信した声、いいよそのまま、勝てるビジョンを持ち続けて隙を見せて。私が負ける瞬間を確信してそのまま前に来て。

 「潰しなさいっ。」

 顔が引っ込んで突撃態勢に入る。これを躱しさせすればこっちの勝ちが決まる、さあ飛び込んできな。

 「……今っ。」

 飛び込んできた頭を跳んで回避し、そのまま頭の上に乗る。そして勢いのままバリアに向かって走りこむ。

 「……馬鹿か、さっき攻撃が通らない事確認したというのに。」

 奴はまだ自分が絶対領域に存在すると思い込んでいるようだ、甘いよその認識。自分が知らない事への恐怖感は持っておいた方が良かったね、だってそうだったらそもそもここまで踏み入らせてないからね。

 「踊り狂え、『蟲毒・解』。」

 禍々しい猛毒の呪いが私にも流れ込んでくる、酷く激痛が走るからあまりこれはやりたくないのだ。

 「振り落としなさいっ。」

 流石にこのおどろおどろしさに怖気づいたのか、私を振り放すようムカデに命令する。が、ムカデは動かない。

 「何しているっ、さっさと動けっ。」

 「無理、蟲毒の呪いに侵された今、こいつに感覚なんてない。」

 妖刀蟲毒、ありとあらゆる毒虫を切り殺しその体液や呪いが盛り込まれた呪われた刀だ。こいつはただ切るだけで毒を中に入れこむが、真価はそこにはない。名前の通りこいつの本質は呪い、切られるたびに入り込む呪怨によって感覚を根こそぎ奪っていく、そういった性質がこいつの本性なのだ。

 「馬鹿なっ……。」

 そのまま障壁に切りかかる、先ほどのように防がれるが、それでも壁に皹を入らせる。あと何回か攻撃すれば完全に引きずり出すことができるだろう。

 「燕返し。」

 振り切った刀を切り返し、そのまま掬い上げるように壁に攻撃する。パリパリと音を立てて剥がれ始める。

 「やめろやめろやめろぉっ。」

 ここでようやく彼女もまた武器を持って破られた後の準備を始める、が勝てる見込みが無いのか震え始めている。

 「安心して、一瞬で終わらせるから。」

 バリンと音を立てて防壁が崩壊する、それと同時に彼女は持っていた薬品を投げつけてくる。恐らく強酸系統の何か危険な薬品だろう、まあ見た目からして想像通りか。

 「縮地。」

 だが当たるほど私は遅くない。縮地を使って後ろに回り込み、是非も言わせずに首を討つ。でももしかしたら自分の肉体もキメラ化させてるかもしれないからそのまま心臓にも刃を突き刺す。これでよし、毒も入り込んだから確実だろう。

 「……痛い。」

 体をずっと蝕む毒を抑える為に、刀を鞘へと納めて影にしまい込む。それでも毒は回り続ける、呪いだから仕方がない。でも持ったままだともっと痛くなるからな。

 「……さて、オオムカデの退治は成功かな。」

 七巻き半ほどのオオムカデ、山すら飲み込むと言っても信じて貰えるサイズだ。これから俵藤太名乗ってもいいかな、弓使ってないけども。

 「……馬鹿なこと考えていないで合流しないと。」

 呪いに侵された頭でぼんやり考える、ヤナギと合流してさっさと解呪してもらわないと。


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