研究者VS調査員
キメラと聞くとなんだか少しだけ心が躍ったりします。
でも某漫画の蟻キメラはちょっと怖いです。
(不利対面に加えて不確定要素が多すぎる……どうしようか。)
声に出さずにそう思案する、確かに一対一だが相手は兵器として使用できるキメラを視認可能現時点で一体所持している。対して私の所には馬が一頭のみで確実に逆転の目は無いように思える。一応従魔は持ってきているが、これが通用するにはまず奴とタイマンの状況に持ち込まないといけない。そしてそれ以上にここで使用するのは勿体ない、バレたらもう二度と通用しなくなる一発のみの攻撃方法だからあまり手の内をばらしたくない。
でもここで倒さねば確実にクヌギさんを追跡して殺しに向かうだろう。一度発見した獲物を逃すほど甘い連中ではないことぐらい知っている。
「やりな、被験体8号。」
名前も付けてないのか、まさしく愛情という言葉に欠けた連中だ。そう心の中でいくら思ったところでオオムカデの動きが止まるわけでもないのでまずは回避に専念する。もう馬に乗って逃げることも叶わないので適当に行かせるよう命じ抜刀する。
「やっぱり直線的すぎるか、要改善だなこれは。」
「よそ見している暇なんてあるの。」
縮地、一気にムカデの上へと躍り出る。そしてその勢いのまま刀を振りかぶる、確実に首を取れるコースだったが何かに弾かれて失敗する。
「見る必要が無いからさ。」
何かバリアのようなものが張られている。その根元はムカデへと繋がっていて、こいつを倒さないと解けないことが容易に分かる。なんて厄介な術式を組み込んだのか、一周回って馬鹿なんじゃないだろうか。
「側近倒さなきゃなんてお約束、使い古され過ぎてもう新鮮味無いね。所詮二番煎じのエセ研究集団。」
「何を言うか偽善団体、調査のために殺すのはありなのかしら。」
ムカデの顔が勢いよく飛び込んでくるのを飛んで回避し、その頭に向かって刀を突きさす。
「天誅っ」
侍専用スキル天誅、これは潜在ステータスである犯罪値が高ければ高いほど効果のある攻撃スキルだ。この攻撃の特異なところは、相手が従魔であった場合に主人のデータを参考にする所にある。倫理観の無い研究を進めているアイツらの犯罪値など想像しなくても分かる。
結構な手ごたえ、ムカデは思わず右に走って逃げだそうとするほどだ。いや何で痛覚搭載したんだヤツら、訳が分からないよ。
「うーん、まだ薬が足りないようだね。」
そういってブスリと背中で何か注射器からおどろおどろしい液体を注入し始める。嫌な予感がする、今ここで攻め立てないと勝機を逃すレベルで。
「奥義、三千世界っ。」
日本刀スキル奥義、三千世界。スキル説明によると数多に存在する並行世界全てに攻撃を加える必中多段攻撃、その世界全てから存在を断ち切るという大袈裟なスキルだ。
足が、触角が、節が切れては宙を舞っていく。悲鳴を上げる器官など無いはずなのにムカデは大きな悲鳴を上げてまだ残っている部分をくねらせて暴れる。
「……観念したら。」
少し拍子抜けだ、この程度で済ませているなんてアイツららしくない。もしかして騙りだろうか、それともクヌギさんみたく新人さんなのだろうか。
「いえいえ、本番はここからですよ。」
何を、そう言おうと思った瞬間地鳴りが起きる。地震じゃない、発信源はあの切れたムカデだ。
切れて無残になった体はどんどん回復し先ほどより丈夫で大きく肥大化している。あの薬が原因だろうか、それともこういった特性を付与していたのだろうか。
「うーんまだいまいちだな、もう一回投薬しておこうか。」
さらにブスリともう一本注射する。またもや上げる悲鳴、さっきの声は私の攻撃でなくあの薬が原因だったようだ。
頭部がメリメリと音を立てて割れ始める。割れた中から出てきたのはまた頭で、一つの首に顔が二つ生まれたのだ。
「毒牙が無い……?」
「おや、そこに気づくとはさすがだね。」
見せてあげよう、そういって何か命令を出す。すると増えた口からこれは毒ですと言わんばかりの液体が辺り一面にまき散らされる。付着した木々はシュウシュウと音を立てて燃え始める。毒というより酸の方が近いだろうか。
「さあさあ、勝てなくなって見せ始める絶望の顔、私に拝ませてくださいよ。」
イカレた戦いはまだまだ終わらない。それもコナラにとって最悪な方向へと進み始めていた。
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