同業他社
イカレ方にもちゃんとベクトルがあります。
常人でもまだ理解できるものとそうでないもの、フィールドワークはまだ前者ですね。
「はぁはぁ……クソッやっぱりあいつらかよ。」
主人公らが森の探索に入るより少し前、もうこの時点で競争は始まっていたのだ。
一人の男が息を切らしながら走り続けている。装備からして中堅はもう突破している段階だろうか、少なくともこの場所には似つかわしくない格好であることは分かるだろう。
仲間が三人ヤられた、それもたった一瞬でだ。たった一回の戦闘でチームの半数以上を失ったのだ、冷静でいられるはずが無いだろう。いくらこれがゲームだとしても、今実感しているのは俺の脳で、そしてありとあらゆる感覚は全てその脳に直接届けられているのだ。目の前でさっきまで談笑していた奴が下半身だけ残して消えていった、もう二人は逃れようとして逆に失敗しそのまま丸のみされていった。そんな中で死の恐怖に苛まれないで立ち向かえる人間がどれ程いるだろうか、もしいるのならこっちの世界に染まり過ぎた社会不適合者と言っても差し支えないと俺は思うがな。
あんなことができる化け物を飼っている奴らなんて極わずか、もう自ら名乗っているものだというものだ。
「チーム:ラボめ、ここを兵器運用のテスト地にでもするつもりかよっ。」
あの悪魔の集団を思い出す、人も生き物もすべてが自分たちの研究材料としか思っていないあの目を持った狂気に染まった顔の群れがじっとこちらを見続ける。あいつらはヤバイ、頭の可笑しい集団はこのゲームにはよくあることで、あちらこちらでヤバイヤバイと言われている奴らはごまんといる。
だがそんな中で異彩を放っているのがこのチーム:ラボだ。昔フィールドワークに所属していたメンバーの中で危険思想の持っていたもの達が排除された結果制作されたという裏話があるように、全員が生物への理解度が高くそして軍事転用に一切の躊躇が無い。あいつらにキメラ改造された魔物の数は小国に住んでいる国民より多いとも言われている程だ。
正直そんな奴らが動く理由なんてあれしか考えられない。前回フィールドワークによって阻まれたレディフライの一等星の確保、ただそれだけだろう。してやられたという屈辱感と追いやられた昔からある復讐心、それを晴らすべくの行動だろう。
あいつらももう一等星の情報をキャッチしていると踏んで事前に俺らで試しやがったんだ、俺ら雑魚クランは所詮前座だったんだ。
「ふざけんな、人をコケにするのも大概にしやがれっ。」
苛立ちが募りに募る。自分らは眼中になかったという事、ただ偶々来たから事前確認のための標的にされたという事、そしてそんな奴らに一瞬で壊滅させられたということ、この全てが自尊心をごちゃまぜにして心の奥底にしまっているどす黒い感情をこれまでかと掻き立てる。
「今に見てろ、ラボもワークスも上位クラン全部俺らガルムトルムが全て食い殺してやるからな。」
「ほう、面白いことを言いますね。」
男がそう怒りに任せて叫んだ瞬間、その後ろからぬっと姿を現してそう呟いた細身で白衣をまとった女が出てくる。
「お、お前はっ」
男も一瞬驚いたことによって硬直したが、すぐに持っていた戦斧を振り返って振り下ろす。だがそれではあまりにも遅すぎた、彼女たちには特に。
「別にゴミムシに名乗る名前などないよ。」
女の陰から無機質な腕が大量に伸びて男を拘束する。戦士職の彼ですらその腕を振りほどくことはできず、ただなされるがままとなっている。
「ふ、ふざけるなっ離しやがれっ。」
掴まれていない脚を振り回し、蹴り飛ばしてどうにか抜け出そうとするが、余計に拘束はきつくなるばかりで逆に首を絞めている。
「ふざけてなどいないさ、私に傷一つ付けられない時点でゴミムシとそう大差ないだろ。いやまだ材料として価値のあるゴミムシが可愛そうか。」
お前らに可哀そうなどという感情などあるものか、そう口に出そうとするが寸でで留まる。言ったところで死期を早めるだけだ。今はどうやって逃げるかを考えるべきだ。
「どうやって逃げ出すか考えているのだろう。実験対象を逃がすと思ったか。」
だが死神は優しくない、回りでまだ手持ち無沙汰にしていた手が一斉に襲い掛かる。首を足を腕を肩を、掴むことのできるありとあらゆる場所に殺到する。
「実験は、どれぐらいの惨さは描写できるかだ。敵の精神攻撃に使えるだろうからな。」
ああ、無残。不幸中の幸いなのはこの場にこの二人しかいなかったことと、男が事前に痛覚設定を切っていたことだった。
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