相対するは
今回のムカデですが、某幼女に優しくないホラーゲームに出てきた神様がモデルです。
因みにやったことありません。
「クヌギさんは撒いたかな。」
後ろから土煙をあげながら走り続けるオオムカデを一旦思考の外に追いやって考える。セレストのあの足の速さなら他の追手が来ていたとしても逃げられるだろう、あのカマキリが道中で潜伏していない限りは。
ここでようやく追いやったムカデを頭の思考に呼び戻す。あの魔物はセンチピート・テュラノス、私たちの拠点がある南部地域の密林にだけ生息し暴君の名を冠する超大型の生物だ。ただこれほどの大きさを持つ個体は今の所発見されていない。もし見つけられていたら確実に今日の掲示板行きのネタだからだ。
「今回の競合はもしかしたら。」
いけ好かない連中の顔が頭をよぎる。カマキリに食べられたあの人も恐らくライバルに入ると思うけども、それ以上に厄介な奴らが裏に控えているとなると少し頭痛がしてくる。
チーム:ラボ、恐らくそいつらが今こうやって妨害している主犯だろう。あいつらは私たちと同じく生物の観察を仮定とするクランだ。だけどもその後の目標が全く異なる。私たちの目的は全生物の図鑑の作成、それに対してチーム:ラボの目標は最強の生物兵器の開発なのだから。
合成魔獣、生物毒を利用した毒ガス、構造や骨格を転用した兵器の製造及び改良、彼らの行ってきた悪行は中堅以上のクランには数多く届いている。まさしく悪名高いクランなのだ。私は絶対許さない。
恐らく今後ろにいるセンチピートは大型化する生物の遺伝子を埋め込まれ、強制的に肥大化させられた個体なのだろう。菌糸を使った土を与えたりしてカブトムシやクワガタを大きくさせる人はいるが、それはまだ自然でもあり得る現象だ。
だがこのような遺伝子操作は人為的な行いでしかなりえない。自然への冒涜、今まで生きて培ってきた生命の神秘を汚す行為だ。絶対に許さない、顔の皮でも剥いでやろうか。
「追尾範囲が大きい、判定の核となってる場所は何処……。」
魔物、特に虫のAIは個体差があるがそこまでいいものは積まされていない。そのため複雑な命令が出せないことが多い。最近蜘蛛のAIが強化されたが、ムカデには何もテコ入れが無かったはず。
そして追尾範囲だがAIの性能によって変わってくる。あまり頭の良くない魔物の追尾可能範囲は主からおよそ200メートル、それ以上は移動できずに命令された地点へと戻っていく。昔捕獲した同個体で試してみたがムカデの範囲は300程で、そこまで距離を追える魔物ではない。
ここで重要になってくるのが、判定は何処に含まれるかだ。何処の部分を基準にしてどれ程離れたかを計測しているのか、これが分からない限りどこまで引き付けるべきかが変わってくる。頭の先端かそれとも体の中心部か、またまた最後尾なのか。あの大きさはまさしく山だ、もし最後尾に判定があったら、この森の三割ほどは奴らのテリトリーとなる。
……いやそれは流石にあり得ないか、余りにもバランスが壊れすぎている。もしそうだったとしても、何のデメリットも無しにここまでの巨体を動かし続けられるはずがない。二つのうちどちらかが正解だろう、どうにかして回答を引きずり出したいものだが。
『もしもしこちらヤナギ、そっちの状況はどうなっていますか。』
『センチピート・テュラノスと接敵、現在二手に分かれて行動中。』
向こうから連絡が入る。声音から切羽詰まった状況ではないことが伺えるので、ここは先に合流してもらって私が単身でどうにかしよう。
『恐らくチーム:ラボの仕業、先に合流して何としてでも奴らに渡さないで。』
『承知、そっちも大事ないように。』
そう会話を終わらせた辺りでムカデの足がまた速くなる。恐らく限界範囲に近づいたから速度を上げさせた奴がいるのだろう。あと少しの辛抱だ。
「走って。」
鞭を入れての再加速、流石にもう追いつけまい。
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