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逃走劇

祝総合20万PV!

ありがとうございます!

 「邪魔だっ。」

 横から飛び乗ってくる猿を薙ぎ払って弾き飛ばす。さっきから襲ってくる魔物の数が増えてきた、もしかして今まで湧かなかったのはあのカマキリとムカデが辺り一面を刈り取っていたからなのか。

 「ぶっ……クソッ。」

 この猿たちだがそこらから拾った石を顔面目掛けて投げつけてくる凶悪さと性悪さを持ち合わせた運営の悪意の詰まった魔物だ。非常に鬱陶しいし、何よりカグヤに当たらないように気をつけないと翅が傷つきかねない。ただでさえ急いでいるというのにこういった妨害が入るとなると焦燥と苛立ちに心が支配される。

 「おらッッ」

 飛び乗ろうとしてきた一頭をもう一度切り裂く。動きの速さや行動の厄介さは今まで戦ってきた通常MOBの中では群を抜いているが、こと耐久力に関してはずっとタフにこっちを食い殺そうとしてきたゾンビの方が優れていただろう。

 だがこのMOB、両方に共通点が存在する。それは数の暴力だ。人類が昔から使用し絶大なる巨大生物を狩り自らの糧としてきたように、数とは正義であり圧倒的な力である。

 「ピャアッ」

 「ダンゾーッ!?」

 ダンゾーがカグヤに向かってきていた石を自分の体を盾にして受けた、だが当たり所が悪い。腹に一撃、石は尖っていたようで裂傷を与え、青緑色の体液をそこから放出している。

 「セレスト、もう少し速く行けないかっ。」

 分かっている、セレストだって手を抜いて走っているわけではないことだって。今全力で俺らを運んでくれていることだって知っている。だけどもこれ以上を望まないことができないんだ、だってこのままじゃやられるだけなんだ。俺じゃない、ダンゾーが、次にカグヤがやられるだろう。奴らはさっきの手ごたえで俺にではなくダンゾーやカグヤに標的を絞り始めた。この調子だと次にセレストに狙いを定めるのも時間の問題なのだ。

 「ブルルルルゥゥ」

 鼻息が酷く荒い、もう全力疾走を続けている証だ。だが頼むもう少し、もう少しだけ力を振り絞ってくれ。血の一滴までどうか振り絞ってくれ。

 「ブゥゥラアアアアアア」

 もはやヒヒーンといったような嘶きではない、肺に入った息をすべて吐き切るかのような雄たけびだ。そしてただでさえもう入りきらないギアをさらに追い込んで、今までの比ではない圧倒的な末脚を今発揮し始める。

 目が真っ赤に染まっている、充血しているなんて生易しいものでは無い、もはや内出血して失明するのではというレベルだ。鬣の色が漆黒から色が抜け落ち始め段々と銀色を帯びた白へと近づいていき、馬という生物からまるで別の生き物へと進化するかの如くその姿を変容させていった。

 「走れぇ、そのまま真っ直ぐッ。」

 グンっと加速した足で猿山から脱出を図る。奴らもこの速度で抜けられることを想定できていなかったようで大半の猿を置き去りにして獣道を突き進む。だが反応で来たごく少数がまだしつこく追ってきては石を投げようとしてくる。何故ここまでしてくるのだろうか。

 まだ先に控えていたのか、待ち伏せしていた猿が一斉にこちらめがけて投げつけてき、鼻に直撃する。

 セレストの鼻から血が出始める、不味い馬は鼻呼吸しかできない生き物だ。このままだと呼吸困難に陥って死んでしまう。だが止まれば、いや止まらなければ死ぬのにもうこれ以上無理させられない。

 手綱を引いて止めようとする、が止まらない、止まろうとしない。そのまま全力疾走で駆け抜けようとする。止めろ、馬鹿死ぬぞ。

 「ガッ……。」

 その瞬間俺の頭部に石がクリーンヒットする。鋼の意志の効果で気絶は免れたが最近追加された眩暈を引き当ててしまった。焦点が定まらない、視界がぼやける、何より思考がまとまらない。これじゃあ気絶と変わらないじゃないか、なんてことしやがる運営。

 脳震盪に苛まれた状態で俺の体の動きは散漫となり、強く綱を引くことができなくなった。ああ、しっかりしないと、このままだとセレストを殺すことになる。動け俺の頭、動け腕、動けよ動いてくれよ。

 

 

 アタイにとって走ることは何よりの楽しみで、そして生きる意味だった。一度スパートに入ればどんな馬だって寄せ付けない、私だけがいつも先頭を見ていた。だが私を買い取った薄汚い男は勝たせない事でブランドをつけようとし、結果アタイをはした金で売り飛ばした。人間なんて嫌いだ、買い取った男もどうせ同じだろう。

 そう思ってた、アイツについていく魔物を見て滑稽だといつも横目で見ていた。どうせ人は自分のためにしたくないことを簡単に押し付けてくると。今のうちに逃げる算段を考えておけと。

 いつでも逃げだすことはできた、だというのに逃げなかったのは何故だったのだろうか、また明日逃げればいいい、これを何回続けてきただろうか。ああ、アタイはここに心地よさを覚えていたんだ。もうあんな感じで競争することはない、足だけを求められることももう無いのだろうけども、こうやってアタイを必要としてくれるという事実だけでどれ程溜まっていた不信感を拭い去ったことだろうか。

 そして今、馬上のアイツがアタイの足を欲している。どれ程苦しくてもアイツが求めてくれると自然とこの脚を壊してでも走り抜けようと思ってしまう。どうした心の変化なのだろうか。

 鼻血が出始め息が苦しくなる、ちゃんと肺に酸素を送り込めなくなる。だがそれがどうしたと言うのか、アタイは最速の駿馬、クイーンセレストだ。


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