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大山鳴動してムカデ一匹

ムカデって怖いと同時にカッコいいと思う時ありますよね。

 『なるほど、なんかヤバい奴いるんですね。』

 連絡機越しにフソウ君の声が聞こえる。見た目は完全にトランシーバーのそれから鮮明な声が届くことに脳が挙動不審な動きをする。いやだって普通トランシーバーってノイズ混じりの声が届くのが当たり前じゃん、こんなスマホみたいなクリアな声だと耳が可笑しくなるの普通じゃん。

 「ええ、それに対立勢力もいるようでして、そっちも気をつけてください。」

 『了解、そんだけヤバイなら一度合流しますか?』

 「と言っていますが、どうしますコナラさん。」

 合流の判断をしたほうがいいようにも思えるが、実戦経験の多いコナラさんに判断を仰ぎたいところだ。そう思って通信機を渡す。

 「カマキリを回避しながら山岳地帯で合流、場所は金木犀の群生地。」

 『了解。』

 合流で決定したようで、コナラさんは一旦下に降ろしていた荷物をまた背負って馬に乗る。何故一回降りたのかと言うと徒歩で向かうか馬で向かうか目標地点でどうなるか変わっていたからだ。合流せずなら徒歩でカマキリ野郎をやり過ごして捜索、合流なら馬ですぐにランデブーポイントまで走り抜ける。今回は後者だ。

 「セレスト、枝が当たって痛いかもしれないが堪えてくれ。」

 あいつを避けて通るとなると大通りなどの見つかりやすい場所は難しく、木々がひしめき合って生えている鬱蒼とした小道を通らないといけない。しかしそうすると馬体が傷つく心配が出る。目に入らないようどうか気をつけてくれ。

 ブルブルと不愉快そうに鼻息を鳴らす、そうだよな行きたくないよな。でも頼むぜ、流石にお前らの目の前で顔からムシャムシャされたくないからな。カグヤ泣かせたくないし。

 


 「うわぁ、ここ痛覚ONにしてたら絶対痛かっただろうな。」

 さっきから体中を木の枝や葉の先端が擦っては刺し擦っては刺しを繰り返している。セレストにもあたっているようで、段々と体表に薄い傷がつき始めている。カグヤを後ろにしておいて正解だったかもしれない、俺が全部この枝を受け切ろう。

 「コナラさん、こっちで本当に合っているんですよね。」

 「そのはず、昔と変わっていなければ。」

 後ろからコナラさんの声がする、セレストのほうが速いということもあって俺が先行することになり、後方からガイドするといった形となっている。ただ馬体は向こうの方が大きいという事もあり、俺以上に擦り傷を負っている。

 「なにか、来るっ。」

 カグヤが後ろから切羽詰まったような声音で伝えてくる。上がった言語能力をいかんなく発揮してくれるのは嬉しいが、こんなところで発揮させたくなかったと思うのはわがままが過ぎるだろうか。

 彼女の宣言通りにボキボキと横から木々をなぎ倒しながら迫ってくる何かを見つける。その姿は体に多くの節を持ち、その節々に足を持つ多足類、毒牙を持つ事から害虫とも言われ、後ろに逃げることができないことから毘沙門の使いともされるその虫の名前は

 「百足かよっ、てかさっきから会う奴らサイズデカすぎるだろ。」

 その体は馬より大きく、蛇より長い、そんな化けものが鎌首をもたげながらこっち側に突進してくる。急いで鞭を入れてトップスピードにギアチェンジするよう指令する。よしきたと言わんばかりに加速しその口から逃れる。

 「気にせず走ってっ。」

 一瞬後ろを振り返りそうになる、俺でギリギリだったのだからコナラさんはどうなってしまうのか気になって。でも意外と声が近い、もしかしてどうにか回避できたのかもしれない。さらに鞭を入れて加速する、もはや今の俺らは一陣の風である。

 ドドドっと地面を耕して回っている音が後ろで鳴り響き続ける、あんなのがこんな場所に生息していると言うのか。ベルクマンの法則だってここまで埒外のものに適応できるはずが無いだろうが。

 因みにベルクマンの法則というのは、同じ種でも地域によって体格が変化するといったもので、基本北に行くほど大きくなると言われている。その理由は表面積を大きくすることで体から熱を放出することを抑えているからだそうだ。いやまて、虫が当てはまるわけないだろうが。だって虫は変温動物だぞ、ベルクマンの法則は恒温動物を対象にした法則で変温動物はそもそも気温の低い場所だと生きていけないからだ。

 「コナラさん、さっきのは何だったんですか。……コナラさん?」

 返事が返ってこないことを不審に思い振り返る。誰もいない、なんならさっきまであったあの鬱蒼と茂る木々が倒壊されていっている。もしかしてコナラさんわざとおとりになったとでもいうのだろうか。

 「……くっ。」

 一瞬引き返そうとしたが思いとどまる。コナラさんは先に行けといった、あの時点で俺を先に活かせることは決定していたから自分を犠牲にしておとりになったのだ、ここで引き返せばあの人の意思を無視したことになる。

 「行けっ早くっ。」

 山めがけて爆走を続ける。一刻も早く合流することが第一だ、急げ急げいそげぇぇっ。


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