高崎ドラゴン、ご臨終(下)
「飛んでる…」
目下に広がる雲海を眺めながら、ドラゴンが呟く。
「おー、成功成功!やったな」
自身の背中らへんから巨人の声がするが、目を向けようにも上手く首が回らない。
高崎ドラゴン、14才の少女は完全にドラゴンの体になってしまっていた。
「これ、どういう事ですか? 変な薬物でも盛りました? てか治ります…?」
「質問攻めしたくなる気持ちもわかるが、いったん俺の話を聞いてもらっていいか?」
「一人称、僕から俺に変わってますよ… というか、聞きたくないので早く治してもらっていいですか?」
「カッコよく、紳士かつミステリアスな感じでいきたかったのに、誰かさんが全く聞く耳を持ってくれなかったからこうなったんだぜ?」
言いがかりも甚だしい。あれは女子中学生が知らない大人に絡まれた時の普通の反応だった。
「ふざけてると、落としますよ?」
「落とされてもダイジョウブ。ただ、また巨人化するから下に人が居たら皆死ぬけど」
「巨人化…?ホントふざけてるな…」
「というかさ、もっとまともな展開にしたかったさ、俺も!でも大人の事情で簡潔で素早い展開にしなきゃいけなくてさ、というか時間なかったし、しょうがないじゃん」
「ちょっと、本当に何言ってるか分からないです」
先程のオラついた感じとは、また打って変わって軽薄な巨人の態度にドラゴンは戸惑う。
「本題に入ろう、ドラゴンちゃんに声をかけたのは他でもない、俺と一緒に異世界で革命を起こしてほしいからさ」
「もうすでに意味が分かりません…」
「その異世界は、名前が重要なんだ。名は体を現す、ってね。だから名前が巨人の俺は巨人になれんの」
「意味が分からないってば…」
ドラゴンの言葉を完全に無視して巨人は続ける。
「じゃあ当然、親は子供に良い名前を付けるよね。普通はさ。でも無理なんだ。生まれた時に管理者に決められちゃうから」
続ける。
「当然、忖度があるよね。変えられない格差が出来てしまう。最悪の世界だ」
「勝手に続けないでください…マイペース過ぎません?」
「そう、マイペースっていやだよね。完全に管理されてさ。個人じゃどうにもならない雁字搦めの世界なんだ」
「だから、なんの話だか、さっぱり…」
「ねえ、ドラゴンちゃんはさ、15歳になったら自分で名前を変えられる。生まれ変われるんだ。その時点で高崎ドラゴンは死ぬ。」
どこまでも自由に巨人は続ける。
「だから死ぬ前に俺と…あのふざけた世界をぶっ壊してくれよ」