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第4話 攻撃

 ××解放戦線のキャンプがどこにあるのかは知らない。僕は食事と寝床を与えられた。夜中に悲鳴を上げて飛び起きてからは、何かの錠剤を飲めと言われた。飲まなければ、殺すぞと脅された。

 それからは、ただ彼らに従った。

 僕は、いつのまにかそれまでの生活を全部忘れて、隣の国の大統領の名前を叫ぶようになっていた。


「大統領をやめろ! 大統領をやめろ! 国の富を国民に!」


 銃の扱い方を教えられた。撃てるようになってもならなくても、僕らは政府軍との戦いに駆り出された。最前線で機関銃を打つ。この銃で後方にいる大人の兵士を撃てば逃げられるかもしれないと思ったけど、きっとすぐに撃ち殺される。後ろにいる大人達は戦うためではなく、僕らが逃げ出さないように見張っているのだ。村は無くなった。僕にはもう帰る場所がない。今はただ、目の前の敵を倒すだけだ。いや、敵と教えられた人間に向って銃を発射するだけなのだ。食べて行軍して人を殺す。薬を飲んで寝る。その繰り返しだ。


 その日は、夜の任務だった。十人程の仲間、小隊長とジャングルの中の敵地を襲うのが任務だ。普通、夜襲はしない。ただでさえ、見通しのきかないジャングルで、夜襲をかけるなど、自殺行為なのだ。と、そこまで考えて、命令した人間の思惑がわかった。

 僕らは捨て石。夜襲に成功しても、無事に帰ってこなくていいんだ。

 その事実に思い当たっても、何の感情もわいてこなかった。どこか遠い世界の話のように感じた。自分が死ぬとは、まったく思わなかった。

 あたりが暗くなって、僕らはベースキャンプを出た。トラックに乗って1時間、それから二時間ほど暗闇の中を歩いた。

 敵のキャンプが樹林の間からみえた。

 同時に「ぐるる」という獣の気配。

 豹だ。樹の上に豹がいる。銃を出した。小隊長が「やめろ」と低い声で言った。


「撃つな、撃ったら敵に見つかる」


 小隊長は、僕らの仲間の内で一番小さな体の少年を呼んだ。


「ゆっくり荷物を下ろせ」


 呼ばれた少年は言う通りにした。


「上着を脱げ」


 少年は怯えた顔でゆっくり首を振る。その少年を羽交い締めにした小隊長。そして、首を切った。ヒュッと言う声のような音。吹き出す鮮血。濃厚な血の匂い。豹が興奮するのがわかる。小隊長は彼の体から上着をはぎとって遠くに投げた。豹が彼の体を追って飛んだ。豹は死体と共にジャングルの奥へ消えた。


 僕らは任務を続行した。もってきた爆弾をキャンプの周りに仕掛けて行く。僕はさっき豹の餌になった少年の分も仕掛けるように言われた。

 爆弾を仕掛けながら思った。

 あの豹はどうなるのだろうと?

 死んだ少年より豹が気になった。僕らは薬浸けになっている。あの少年も薬浸けだった。薬浸けの少年を食べた豹も薬付けになるんだろうか?

 薬で狂った豹はどんな行動を取るんだろう?

 僕らが爆弾を仕掛け終わると、小隊長は皆を引き上げさせた。ジャングルの樹の間に身をひそめる。小隊長がスイッチを押した。

 響き渡る轟音。

 敵兵が慌てて飛び出してきた。そこへ、銃を乱射する。


「灯りを消せ!」


 誰かが喚いている。パンパンという音がしてあたりが真っ暗になった。

 その時、ドンという音と共に火の手が上がった。辺りが真昼のように明るくなった。同時に立て続けに爆発が起る。どうやら、今回の襲撃の目的、武器、弾薬に火をつけて、敵の戦闘力を削ぐという目的は達したようだった。


「よし、撤収するぞ!」


 小隊長の声が聞こえた。

 炎をバックに敵兵の影が浮かぶ。そこに向って小銃を打ち込む。敵が打ち返してくる。

 玉が飛び交う中、僕らはそろそろと後ろへ下がった。ジャングルの中、来た道を速やかに戻って行く。夜空に火の粉が飛んで、ジャングルの影を濃くしていた。

 夜が白み始める頃、ようやくジャングルを抜けて、トラックを置いた場所まで戻った。僕はトラックの荷台に乗りこむや気絶した。


 激しく揺すられて気がついた。


「おい、小隊長はどうした?」

「し、知らない」

「知らないだと!」

「本当に知らないんです。任務通り、敵のベースキャンプを破壊して、ジャングルを抜けて戻って来ました。その時、バラバラになって。途中で(はぐ)れたんだと思います」


 ジャングルに小隊長を救出に行くかどうか、トラックに残った兵士達が相談していたが、結局、三十分待って撤収した。無線は通じず、恐らく死んだのだろうという話になった。

 生き残った僕達はそれぞれ別々の隊に編入され、相変わらず訓練と行軍を繰り返した。

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