9 激しくお買い物
武器屋に置いてあった一番大きなメイスもキョーコは軽々と振った。
「うーん、でも大きすぎて邪魔だからこのくらいにしておこうかな?」
キョーコは真ん中よりちょっと重めのメイスをチョイス。その重さも私達には無理。
「キョーコ、長い武器も使ったら?返り血浴びなくて済むよ?」
メアリーが真面目な顔でアドバイスしていた。恐らくそのメイスで殴ると血以外も浴びそう。脳汁とか。髄液とか。吐瀉物とか。
「おう、槍も揃えてるから、見てってくれよ。槍は刺す切るだけの武器じゃないんだ!叩く武器でもあるからな?最近の冒険者はそこんとこわかってねぇんだ!なぁ、嬢ちゃん?」
私もメアリーも槍を使ったことがある。戦でだから、お上品な作法なんか知らない。しならせた柄を振り下ろして、近づいてきた敵をある程度の距離で昏倒させてた。そしてプスリ。
「へー、そうなんですね。おすすめは?」
「うちの槍だとこれかな?一番柄が丈夫だ。穂先もソコソコあるから突く切るも大丈夫だけど、高いぜ?」
2メートル半ほどの槍を持ったキョーコが私達の方を振り向く。
「おじさん、私が出すから大丈夫だよ?キョーコ、メイスと槍で大丈夫?」
「え?あ、大丈夫だよ?何が欲しいかいまいちわかんないしね?」
「じゃあ精算しちまうか?」
おじさんがメイスと槍を抱えていた。
「おじさん、キョーコが持ったメイスの少し軽いのと、もう一本同じような槍も追加でちょうだい?」
「おいおい、大丈夫なのか?結構な額になるが…カードでも残高がないと買えないぜ?」
おじさんの店は武器屋としては王の都のなかだと真ん中より下くらいの品揃えだ。でも他の国やすぐそばにある大きな街と比べると武器は少ないし、品質もあまり高くない。まぁ、この都にはドワーフいないからな。それでも武器は高いから。戦で使うとなると高いから生き残れるわけではないしね。ほとんど運だよ。
「大丈夫!精算お願いね?」
店内に戻ると、いつの間にかいなくなっていたメアリーが既に戻って拷問器具を眺めていた。その顎を砕く器具は置きなさい。
「じゃあカード預かるな?うお!?本当に引き落とせた!?流石英雄様だな!」
「え!?知ってたの?」
「これでも武器屋だぜ?まぁ、本当は魔道具屋のオババに教えてもらった」
鍛冶場の火の魔石を交換するときに来てもらったそうな。そのときに武器を見てあのババアが喋ったんだと。城壁の上からよく見えたな。おじさんがババアから言われたのは気の流れがとか?よく分からない。
おじさんにお礼を言って武器屋を出て、すぐ隣の防具屋に入った。
「いらっしゃい。待ってたよ?そっちのお嬢さんの防具だね?聞こえてたからとりあえず用意しておいたよ?」
話が早くて助かるね。早速革の軽鎧を試着してもらう。
「ありがとうございます。はじめまして。キョーコと申します。よろしくお願いします」
キョーコが革の鎧を試着した。うん、ぴったりだね。それと…店内を見渡す。
「おじさん、あの鉄のガントレットとすね当ても、あと私達のと同じようなブーツとマントもお願いします」
全身鎧だとさすがに邪魔だから、各部パーツを組み換えてみた。重さはキョーコなら大丈夫だろう。よし、ぴったりのがあった。
「キョーコ、ちょっと動いてみて違和感はない?」
キョーコに動いてもらう。見る限りだと問題無さそう。相変わらずメアリーは三角木馬を見ている。
「ぴったりだよ?動きにくくもないし良い感じ!」
「それにしても相変わらずメアリーは作業台の脚が好きなんだな?」
三角木馬じゃなかった。重ねておいてある作業台の脚とのこと。なるほど、だから軽量化の肉抜きがしてあるのか。急速に興味をなくしたメアリーが革を縫う針を眺めはじめた。また良からぬことを考えてるな。
ここの代金もカードで支払う。今日だけで300万くらい使った。キョーコが「ブラックカードだ!」ってはしゃいでいたけど、私達のカードはピンク色している。黒くない。だからというわけではないけど、キョーコのマントは黒にした。
防具屋を出る頃には10時になっていた。馬車組合に向かった。
馬車組合の受付で昨日もらった札を見せる。あと一人追加になったことを告げる。
「一人追加になったけど大丈夫ですか?」
「えーと、確か二人で4人乗りでしたね?なら大丈夫ですよ?定員の4人までなら大丈夫ですので。増減があっても特に報告もいりません。馬車は玄関先に停めておきますので、担当に札を渡してください。お気をつけて」
保証も馬車の事故時の時の物のようなので、一人増えても問題ないとのこと。乗車定員越えるとダメですよと教えてくれた。玄関先には私達の馬車だけだったから、すんなりと引き渡し完了。
馬車に乗る。まずは私が御者をする。メアリーとキョーコは幌の中、板の上に座っている。クッションあった方が良いかな。ギルドの売店で見てみよう。
冒険者ギルドに着いた。流石に馬車のまま中に入るのはダメだよね?並んでいる列を跳ねたくなる衝動に駆られる。頭の中で愚民を蹂躙して人がゴミのようだと思っている頃、ギルドの職員さんが馬車を誘導してくれた。なるほどこっちにいくのね。
馬車を駐車スペースに停めて、中に入る。あ、ジュリアだ。今日も受付してるね。ん?目があったと思ったら、受付を他の娘と交代してこっちにきた。カウンターを飛び出たせいでスカートがひらりとめくれて見えそうだよ?また並んでいる男の子達の顔が真っ赤だ。ところでメアリー?
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