64 ハードラックキョーコ
ジュリアが運転する馬車に揺られて門まできた。勇者なのに初めての主人公回。緊張する。あ、あー。チェック、チェック。あ、あー、テステス。
「サムソン。ちょっと仕事でイモ村まで行くから。うん。愛してる。行ってくるね?サムソンもお仕事ガンバ!」
ジュリアとサムソンが愛を語り合っていた。やめて?私、助手席にいるんだけど?お腹一杯だよ?やさぐれたりもするけどまだ元気です。
何とか門を出た。愛を語り合って、チューまでしてくれてた。私のライフはゼロよ?そんなの見せつけられたらね?ちくしょう。
そんな事考えてたらもう分岐だ。あ、広い道に見えるのは特殊遊撃隊だ。走ってる頑張ってね?私も頑張ったから。特に門での熱いラブシーンを見せつけられる辺りで。吐血ものだった。ジュリアが馬車を草原に向けて進める。
草原を行く馬車は速かった。最近大量に沸いているというゴブリンを跳ねる跳ねる。うはは?ぐちょぐちょだよ。ゴブリンがごみのようだ。この魔石はいつかこのゴブリンの轢死体を拝むことになるあなたにあげる。フォーユー。
速い。もう山を登った。あの時の山小屋が見えたと思ったらはるか上に見える。既に夕暮れだけどこのまま進めば、夜には、日が変わる前には村につくだろう。折角の主人公回なんだけど?引き延ばしに掛かろうかしら。
村の門まできた。あの時とは別のおじさんが門番している。当たり前のようにミスリルの槍を装備してるね。この異世界はミスリルの加工が人族にはできないらしい。そして出回っていない。だが、この村は例外だ。
「ようこそ。イモ村へ。あ、ダンシングクイーン!!おかえりなさいませ!」
「帰って来たよ!我こそはダンシングクイーン!それは躍り続けた者の証」
なんだろう。このアウェー感。アウェーの先例を村に入るときから感じる。そんな事を感じながら、ギルドへやって来た。今回ギルド用ないよね?
「ウフフ?エレナいる?」
窓口には知らない娘がいた。私達は売るもの持ってないよ?
「明日の朝まで来ないですよ?何かご用ですか?あれ?ジュリアか。雰囲気変わったから気がつかなかったよ!」
そうか。ジュリアはギルド職員でもあるから、この娘のことを知っていても不思議はないか。
「ウフフ?用はないけど、明日来るね!」
これ絶対自慢するよね。嬉しいんだろうな。私なら嬉しいもん。でも迷惑な客だな。ごめんなさい。名も知らぬ受付嬢よ。
「こんばんは。ジュリアです」
「キョーコです」
「あらあら、いらっしゃい。マチルダいないけどゆっくりしていってね?」
マチルダの実家に泊めてもらうことになった。都の門を出てから一番の優しさに触れた気がする。
「キョーコちゃん、一緒にご飯作りましょう?」
「はい!お母様!」
マチルダのお母さんと一緒にコロッケをこらしょと揚げた。
「へへへ?ジュリアちゃん綺麗だね?ちょっとスカート捲って?」
「ダメですよ?私にはもう心に決めた人がいるから!」
「ちょっとおじさんにスカート捲らせてぇぶべらっ!?」
マチルダのお父さんの顔にフライパンがめり込んでいた。大丈夫かな?でもお父さんは瀕死の演技がうまいね。
「ふー。沢山出来たね。半分持っていって?キョーコちゃんなら持ってけるでしょ?」
さっきの流れるようなフォームでのフライパンの投擲が美しかったな。そこそこの距離を当てる命中率も凄い。心の中で投擲の師匠と呼ばせてもらおう。
「ありがとうございます!お母様!」
その夜はジュリアが夜泣きして大変だった。サムソンに会いたいじゃねぇよ。今朝チューしてたじゃん。そもそもこの旅はサムソンの鎧を依頼しに来たんだよ?本当に泣きたいのは私よ?
この思いをぶつけるように、真夜中に投擲の訓練をマチルダのお母様とした。的は生きてた。避け方と死なない当たり方が玄人だ。
次の日。早朝からギルドへ。窓口にエレナさんがいた。
「エレナおはよう!」
「あら、ジュリア。昨日も夜寄ったんだって?何か用なの?首でも持ってきてくれた?」
ねぇよ?…はっ!?首の話題を出したら気配が増えた。
「エレナさん、首と聞こえたんですが?」
イーちゃんがきた。忍の者かのように近寄ってきた、侮れんぞ。イーちゃん。
「へへへ?ごめんね?首はないの。でね?聞いてよエレナ。彼氏が出来たのよ?」
「ふーん。そうなの……え!?」
エレナさんは持っていた書類を落とした。既にイーちゃんの気配はない。すげぇよ!イーちゃん。仕方ないから私が書類をまとめるよ。ここに置いておくね?
「え?嘘よね?キョーコさん、嘘ですよね?」
私は首を振ることしかできない。隣ではドヤ顔のジュリアがいる。ワナワナと震えるエレナさんを置いてギルドを後にした。ジュリア、いつか刺されるよ?蘇生魔法はあるけど、私まだ使えないからね?必要MP今のMAXの10倍以上よ?
まぁ、レベル一桁で覚えたのはチートだと思う。各種パラメーターもバグってるとしか思えない数値だもん。ただHPとMPはレベル相当だと思う。HPはジュリアとどっこい。MPはマチルダやメアリーよりは多いけどジュリアより少ない。レベルはジュリアの少し下。もう少しで追い付きそうなんだよね。
「あ、ああ……あぁぁぁぁぁぁ!!」
完璧超人が崩れ落ちていた。エレナさん、一緒に頑張ろうね?胸の大きさは違うけど私達は同志よ?ここにジュリア被害者の会の結成を宣言する!
ギルドを出た私達はそのままお義父様のお店へ向かった。噴水は今日も凄い勢いで噴き出している。
「ただいま。お義父様帰りました」
「お爺さん、お願いがあるの?聞いてよ?」
店の奥からお義父様が出てきた。相変わらずの髭。立派な髭だ。もさりたい。いつかもしゃる。
「キョーコ、お帰り。ジュリアもよく来たな。何が欲しいんだ?」
何故かお義父様はミスリルの甲冑を手にしていた。凄い甲冑だな。防御力高そう。まだ途中なのかな。忙しいのかな?
「あのう…失礼だとは思いますが、片手間の片手間のの息抜きで一服しながら作った位の防具ってありますか?」
お義父様は少しだけ険しい顔になる。そうだよね。誇りを持ってやっている仕事で手抜き品あるかって聞かれるのはイラッとするよね。
「お義父様…」
「おう、ちょうど片手間で作ってる物の片手間で作った物の息抜きで鼻くそほじりながら作ってるのがこれだな?」
うお?会議で出てきた原文ままのほうじゃん。そうか、ヒルデさんはお義父様がこんな言い回しするって知ってたのか。納得。
「昨日、ヒルデから連絡が来ての?暇だったから朝から作ってみた。ほら、もうすぐ完成するぞ?見てくか?」
「はい!ありがとうございます!」
うん?連絡ですと?さっきの納得を返して!
「キョーコには教えておこう。ワシとヒルデ、魔導具屋の勇者様は互いに又は三者で連絡というか会話ができるんだ。離れていてもな。勇者様のスキルで使えるようになったな。便利だぞ?」
携帯とかトランシーバーみたいなスキルか。便利だよね。
「キョーコに作る甲冑はこんなのじゃないから安心しろ?ドラゴンのブレスも爪も牙さえも弾き返す鎧を作るからな?」
お義父様。私は何と闘い、どこへ向かうのかしら?できたら異世界をのほほんと暢気に過ごしたいと思ってるのですが、過ぎた希望でしょうか。キョーコの、のんびり異世界探訪。もしくはキョーコの異世界散歩。これくらいのユルさが欲しい。せめてキョーコの異世界料理十番勝負位でお願いしたい。
でも現実は血みどろで剣と魔法の世界だ。諦めて戦う道を選ぶよ?戸惑わずやるか。他のことも精一杯がんばる。寄り道いっぱいするぞ!
お義父様を先頭に、ジュリアと店の奥へ進む。マチルダはここへ入ると卒倒するって言ってたな。店の手前側のミスリルゾーンまでだってさ。あ、ミスリルの刀だ。綺麗だよね。これ。これで子供のおもちゃだもんなぁ。
店の奥の奥、作業場に到着する。ミスリルの全身鎧が鎮座ましましていた。うぉ!?凄い迫力だけど、これが息抜きの息抜きの鼻くそほじりながらの作品なの?でも、確かに籠手が片っ方ない飾ってあるミスリルの鎧よりは迫力はないかな?
「うわぁ。凄い!これはおいくらですか?」
「うん?そうだな。都の酒、樽二つでどうだ?」
昨日買ったな。市場で。ヒルデさんが三つ買ってって私にねだってきた。私のインベントリにある。あれ?私のお金で買ったよな?そうか、報酬はスキルで知ってたのね。ならジュリアに出させれば…あれ?ジュリアお金ないのかな?
「うわ!ありがとう。キョーコお酒だして?」
仕方ないから出してあげた。お義父様に飲んでもらうんだ。三樽だしたる。
「お爺さん、これを納めて?一樽はキョーコからよ?大事に飲んでね?」
解せぬ。友達の恋の応援はしたいけど。
「キョーコありがとうな?この一樽は大事な時に飲むとしよう」
三樽とも私からだよと喉元まででる。でも私は止めた。ジュリア頑張ってね。この鎧ならたぶん勇者達が乗っていた大きな馬車に跳ねられても平気だと思う。そんな迫力が感じられる鎧だ。
お昼はエレナさんとやけ食いしよう。インベントリのコロッケを一緒に食べよう。そうしよう。でもジュリアの恋は応援するからね!
私の名はキョーコ。勇者としてこの世界に召喚された運の悪い女だ。称号欄にハードラックキョーコとあるから間違いない。唯一の自慢はこの回がこの連載64話までの中で一番長かったことかな。勇者だもん。メタ発言くらいするわよ?




