59 シェフの刺激
運ばれてきた大根めしを見たジュリアが驚きの表情だ。
「これが…大根飯ですって?否、これは大根飯を名乗るごちそうよ!!」
白い皿にきれいに盛り付けられた大根飯?はちょっと大根飯に見えない。彩もきれい。周りに盛り付けられたおかず的な物には、なにかソースもかけてある。ふんわりと薫その匂いは、絶対においしいを確約している。ワンプレートに纏められたそれはボリュームも十分。コーンスープとエスプレッソがついてきた。
「大根飯を馬鹿にしたジュリアをぎゃふんと言わせるためだけにシェフが採算度外視で作った特別メニューだよ?今後はディナータイムで提供するコース料理の中に組み込む予定だって。ランチでは二度と出ない幻の一品ね」
シルビアが説明してるけど、ジュリアの前に置かれた皿は既に何も乗っていない。エスプレッソを優雅に飲んでいる。黙ってこんな感じで優雅にエスプレッソとか飲んでいるとモテそうだよ?窓際で木漏れ日を浴びながらエスプレッソを飲む金髪ハーフエルフの皮を被った変態。後半部分を出さなければ、エルフで止めておけば勝ち組だよ。最後で台無しだ。すべてをひっくり返す。
ジュリアは置いておいて、私が食べたカルボナーラだよ。卵とチーズの本格派なんだって。クリームを入れるのはなんだか違う気がするんだとシェフがこだわって作っているそう。私にはよくわからん。美味しければ正義だよ。そしてこのカルボナーラはジャスティス。一口目でこのパスタの虜になった。美味しい。メニュー見るとまだまだたくさんある。楽しみだな。キョーコが食べてた焼きそばも気になるな。今日のメアリーのオムライスに旗が刺してあったのはちょっと羨ましかった。
「マチルダ、今度お家で焼きそば作りますよ?ちょっとアレンジしようかしら?」
キョーコ?焼きそばって完成された料理じゃないの?アレンジができるの?カルチャーショックだよ。美味しいが正義なのでいい方にショック。これからの三食が楽しみ。
「ちょっと遅くなったけど、魔力草の採取にもいくよ?いかない子はご飯抜きね?」
張り切っている。キョーコが張り切ってるよ。そしてキョーコのご飯抜きは嫌だ。私たちはもう餌付けされてしまっている。餌付けされた小動物のごとく、プルプル震える存在だ。あああ、勇者様。私たちに温かいご飯を…。
本日何度目かの門。門番はやっぱりサムソン。
「通るね?」
「おう!」
「サムソンさん、行ってきますね?あ、自己紹介がまだでしたね。ジュリアです。えへ?」
サムソンは顔を赤らめている。ところでメアリー?なぜおまえまで?今回は顔を赤らめるのではなく、えへ?を真似するんだ?収拾がつかなくなるからやめて?
「お、お気をつけて!ジュリアさん」
門から外に出た私たちに、というかジュリアに、サムソンは手を振っていた。
分岐点について、一番細い整備されていない道の隣の平原を眺める。今日は初心者パーティーいるね。イモ村に行ったときは見なかった。みんな草原を見渡して驚いていた。今日は何かあるのかな?そこの少年少女に聞いてみるか。
「こんにちは。今日はなんでこんなにいるの?」
「ン?お姉さん知らないの?今日はゴブリンがたくさん沸いてるようで午前中に来た奴らは結構儲かったらしいよ?出てくるのが一度に2体か3体だから初心者パーティーでも行けるってさ」
「だから私たち草原に吹く風もみんなで来たんだよ」
草原に吹く風は男2、女2のパーティーだった。全員ティーンエージャーだ。話しかけて答えてくれてよかった。尖った子だとどうしようかと。
「ありがとう、私たちは旅する乙女たちよ。私はマチルダ、よろしくね?」
「メアリーです」
「キョーコです」
「あれ?確か私が受付したよね?ジュリアだよ」
ジュリアが冒険者ギルドで登録したパーティーのようだ。草原に吹く風のメンバーは、男の子がアーク、ウリエル、女の子がルーナ、エレノアで全員16歳とのこと。16歳かぁ、戦争してたな。この子たちが今こうして冒険者をやっているのを見ると、私たちも多少は今の平和に貢献できたのかなって思う。あの頃は血みどろだったけど、今がこれなら救われる気持ちだ。
「お姉さんたちは魔力草を摘みに来たんだ。ゴブリンが出たら任せるね?草原に吹く風のみんな!」
キョーコが草原に吹く風のメンバーに対して声援を送る。魔力草は割と見た気がするんだよね。
「ありがとう!お姉さんたちも気をつけてくださいね?」
男の子たちはキョーコの声援でちょっと顔が赤い。ルーナが代表したのか返事を返してくれた。こらハーフエルフ、競おうとするな。スカートをたくし上げるんじゃない。スカート禁止にするぞ?メアリーも真似すんじゃねえ!ちなみにルーナもエレノアもこちら側だ。まな板同盟でも、メロンスイカ協定でもない。美乳特選隊だ。詰め物でないことを祈る。
「気を付けるよ!みんなもね?」
手を振って草原に吹く風のみんなを見送る。さあ実験の時間だ。さわやかなお姉さんたちはなりを潜めてマッドな側面が表に現れるよ。おい、お前ら。私は違うって顔しても無駄だ。ははははは、マッドじゃなければ拷問を嬉々として行えないし、マッドじゃなければメイスをフルスイングで頭を吹き飛ばしたりしないし、マッドじゃなければ金髪ハーフエルフの皮を被った変態とは言われないんだぜ。
私たちは歩き出す。午後の草原を。魔力草をもとめて。少しだけ吹いた風が草原を渡っていく。草原に吹く風だなと思うと、マッドな部分を少しだけ隠してくれた気がした。




