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40 悲しい同盟国

 カレーを食べ終えたら就寝。でもまだ明るい。あと見張りはどうしよう?


「大丈夫、大丈夫、襲撃はないよ?私が保証するから。心配なら結界張るよ?ジュリアちゃん、外に出てテントに向かって矢を放って?ミスリルの弓でね?」


「大丈夫なの?まぁ、やるけど」


 真新しい胸当てをまな板に着けた。あれ?


「よし、マチルダ動かないでね?お願いね!」


 ジュリアのアイコンタクトが送られ、私の体をがっちり捕まれた。く、メアリーか?と横見たら馬に水をポタポタと垂らしてご満悦のメアリーが見えた。ふぁ?だれだ!私を拘束してるのは?


「マチルダ、まな板同盟のキョーコだよ?ジュリア!目だ!目を狙え!」


 悲しい同盟だった。キョーコが物騒なこと言ってる。左手に弓を持つジュリアの背後にオーラが見えた気がする。震える足が言うことを聞いてくれない。キョーコのまな板が背中を固定した。


「ジュリアちゃん、その弓は勇者様の世界の弓を基にしてるからね?だからちょー長いでしょ?二メートル越えるからね。耳の後ろまで引きなさい。まずはこうよ。そしてこう、左手を開きながら右手も開く感じで、狙いなさい。眼を!」


 まな板同盟がここにもいた。体の中央に構えた弓に矢をつがえて、上にあげる。そこから左肘は伸ばしたまま、右肘を曲げて両側に少し広げた状態で少し静止。引き絞った弦が耳の後ろまできたジュリアの目に殺気がこもる。これは…恐怖。動き出す膀胱、緩まる尿道。だ、ダメだ静まるんだ!


「ふははは!死ねぇ!」


 弦の音が響き、弓が返る。パッと散る金色。放たれた矢は、私の頬を掠り、キョーコの髪を数本宙に舞わせ、ヒルデさんの耳を掠めてテントを貫通、後ろの木な中央付近にあたり、後ろに土煙が舞う。広がる水溜まり。


「ヒルデさん?私の頬、血出てるけど?あれ?つめたい…」


「私の髪もはらりと落ちましたよ?あれ?ズボンが…」


「…私の耳を掠めたわね?あれ?おかしいな?びちょびちょ?」


 三つの水溜まりが出来上がった。三人で痕跡を追う。まずはテント。侵入した穴も、出ていった穴もまん丸。綺麗に抜けていた。その後ろの木。中央にまん丸の穴。向こう側が見える。その後ろの岩。山の傾斜にある岩だ。穴が空いている。後ろの傾斜の中まで続いてそうだ。


「私も混ぜてよ?並べ?」


 いつの間にかクロスボウを構えたメアリーがいた。あれ?ジュリアは耳を押さえてしゃがんでるけど?


「はわわわわ、耳が、耳が、と、とれた…」


 尖った耳が半分になっていた。耳も切られたことに気がついたようで出血し始めた。ハーフとはいえエルフには、勇者様の国の弓は難ありだった。耳の後ろまで引くと当たるよね?あと前髪の右側がざっくりと切られていた。すかさず落ちていた耳をあてながらヒールをかける同盟者キョーコ。元の耳に戻ったね?髪の毛は戻らないけど。バチが当たったのかな?


「ふははは!漏らせや!」


 ズカン!と響くボウからボルトが発射された。射線には私とヒルデさん。驚愕の目付きの二人。一秒が永遠に引き伸ばされる。動かない体、徐々に迫るぶれるボルト。二本に見える。その刹那!空中でボルトが音もなく停止して、地面に転がった。やっぱり二本だ。一人一本かよ!


「あ、結界だ。これこれ。これが結界よ。ジュリアちゃん、ちょっと矢をみせて?あと、その弓を使うときはこれも使いなさい」


 ヒルデさんが、さらりと出したのはミスリルの鉢巻。これを額に耳と前髪を押さえておけば安心。ミスリルの矢を受けとると驚愕の顔をした。


「対結界のミスリルの矢かよ…義理の娘と近所の子と戦友を危なく殺すとこだったよ?ジオウちゃん…」


 興味をなくしたメアリーが装置に戻った。ジュリアの頭にポタポタ。


「さ、結界の凄まじさがわかったら、夜は恋ばなだよ?メアリーちゃん、その装置気に入ってくれてうれしいわー?」


 永遠に近い時を生きるハイエルフ。その恋ばなか。ジュリアが渋い顔をしている。母親の恋ばな聞きたいかって問われたら、お断りって答えるだろう。例え見た目がお姉さんにしか見えなくても。


「今まで一人っ子だと思ってたのよ。でも………私の知らない年の離れた兄と姉がいた…十数人も。しかも甥と姪がいて、さらにその下も…みんな年上…うがぁあああ!!」


 ジュリアが衝撃の事実を告げられていた。しかもジュリアと父親が違う。王の国の魔法隊に甥がいるんだって。アリサの旦那さんの同僚だね。何人か闇に落ちた方もいるとか。今、ジュリアが闇に落ちそうだ。さっき落ちてなかった?まな板同盟全員。闇に落ちるハイエルフ、闇に落ちる勇者様、闇に落ちる金髪ハーフエルフの皮を被った変態。最後がヤバそう。


「夫とは全員死別です。今は未亡人よー?」


 ジュリアを産んで、戦で旦那を亡くしてからは独り身だそうだ。もう結婚はいいかなって深いため息をついたヒルデさんは今、旅をしているんだって。グルメツアーだ。


「ふふふ?私の旅の、そして恋の終着駅、それはキョーコ。貴女よ?夜食作ってー?」


 今、ヒルデさんは恋をしていた。美味しいご飯に。


 キョーコはインベントリから夜食に蒸かしたじゃがいもを取り出してヒルデさんに渡していた。少しだけがっかりしたヒルデさんが、じゃがいもを囓りだした。


「ちょっと待って?これを上に。さ、食べてください。お義父様も気に入りましたから。きっとヒルデさんも…ね?」


「はう!?好きよ?キョーコ!」


 バターの油で口回りがテカテカのハイエルフが勇者様に告白。あれ?このシチュエーションに何時もなら顔を赤らめるのがいない。どこ行った?


「私は今、じゃがバターに恋をしているんだ…男なんてじゃがバターと比べたらイモね」


 この言葉に少しだけほっとした顔のジュリアがいた。芋と比べてイモか。よくわからん。


「私が抜け駆けするより先に…お母さんに男ができてたら立ち直れないよ?」


 本気を出されたら、私たちでは勝てなさそう。そしてジュリア、抜け駆けは許さん。同盟者のキョーコも目が恐いぞ?


「ふふふ?まずは相手を作ってから言おうか?ジュリアちゃん?」


 白目を剥くジュリアの頭にポタポタと水滴が落ち続け、アンシンメトリーな前髪をおでこに貼り付けていた。気に入ったんだね。それ。ジュリアの背後に立つメアリーの顔は幸せそうだった。


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