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39 レジェンダリーコント

「私もね?鑑定ができるのよ?」


 ヒルデさんが御者しながら私たちをみた。


「マチルダちゃん…うーん、マーちゃんの方が呼びやすいな。マーちゃんは兵士してたのね。メアリーちゃんも。二人とも生き残った英雄さんだ。キョーコちゃんはサイレントヒルの勇者様ね。もともと大学院の学生さんか。私とジオウちゃんが仕えてる勇者様もサイレントヒル出身ね。マウントフジとお茶の国だって言ってたわ。ジュリアちゃんは…お母さん悲しいよ?ギルドを辞めるのは構わないけど、ランキングと変態はどうにかしよ?あとたくわん色のハーフエルフってなに?」


 柔らかな口調で色々と見透かされていた。そして傷を抉られたジュリアが倒れて床に後頭部をぶつける。確か来るときにキョーコが噎せてたな。自分の金髪がたくわんに似てますって言って。


「もっと色々見えるわよ?キョーコちゃんも頑張ってね?私の事を鑑定してみた?」


「見させてもらいますね?ふぁっ!?え?ええ??こ、これは言って良いんですか?」


「どんとこーい!」


 キョーコがあわてふためいていた。何か見えちゃダメなもの見えたのかしら?さっきからメアリーは装置を眺めてご満悦だ。


「えーと、数字的なものはモザイクかかっていて見えないですね。モザイクの位置がちょうど下半身でえろいです。あとハイエルフで初代ダンシングクイーンの下が、神に近いものになってる…」


「ジオウちゃんもそうだよ?ジオウちゃんはエルダードワーフね?」


 えー!!何だって!!あばばばばば!!!…へーそうなんだぁ。驚いてはみたけど、何がすごいのか良くわかんないや。メアリーも私の方見て頷く。良くわかんないけどすごそうだね。メアリーはわかる?わかんないよね?一緒だよ。え?


「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」


 あははは?うける!メアリーのコントに爆笑。


「鑑定する力が上がれば、モザイクも消えるし、もっと色々見えるから頑張ってね?ジュリアちゃんはまず、あざとさをなくそうか?」


 ヒルデさん、そのあざとさもジュリアの魅力です。一部地域で。限定的かもしれないけど。マニア向けで。たぶん?きっと?


「マチルダ心の友よ!」


 ジュリアに抱きしめられた。ところでメアリー?なんで顔を赤らめてるんだい?


「神に近いものなのよ?あれ?…意外と動じないのね?ちょっとショックだわ?それと、お母さんは王の都に住んでいる勇者様に会いに行くからね?ちょー久しぶり。だからジュリアちゃん泊めてね?」


「アパート狭いよ?」


「同じベッドで寝るから大丈夫!昼間はぶらぶら散歩してるしね~」


 だからメアリー?なぜ顔を赤らめてるんだい?


「ヒルデさん、なんでモンスター出ないんですか?もう少しで山頂だよね?」


 ヒルデさんが御者してからモンスター出てこない。それに馬が頑張ってるのか速い。まだ昼前だ。メアリーが装置に水を入れて入れてポタポタと落ちる水滴を見てご満悦だ。


「わたしゃ神様だよ?ふふふ?だからね?モンスターも近寄らないから、早く着くよ?それともレベルあげしたい?」


「ヒルデさんレベルが何なのかわかんないよ?」


「やっぱり敵を倒すと上がるんですか?」


 キョーコ?あ!そういえば何か言ってたな。数字がどうこう言ってた。HPとか言ってた。


「敵を倒すと上がるけど、他の経験もしてね?戦いしかできない勇者様は悲惨よ~?」


 緩い口調だけど、発言が重く感じた。キョーコも何か、この言葉を噛み締めるように受け止めていた。


「それと勇者として決断する時は何があっても悔いの残らない選択をしなさい」


「え…?」


 緩かった口調が、透き通り、どこまでも真っ直ぐ届く強めの口調でヒルデさんは言った。ヒルデさんはお爺さん、ドワーフのジオウと勇者様と旅をしていた。もしかしたらもう数人お供の人はいたかもしれない。その時に何かあったのか、私にはわからない。恐らく教えて貰えないだろう。戸惑うキョーコを見ながらそんな事を思った。


 馬車に揺られる若い頃のお爺さんドワーフのジオウ、今と変わらないヒルデさん、それと何故か女勇者様が真ん中で二人の肩に手をかけて、みんな泣いている姿が見えた気がした。


「わたしから言えるのはそれくらいねー?今をしっかり生きなさいね?なにが正解かはわからないよ?」


 何時もの、さっきまでの口調に戻ったヒルデさんは、どこか悲しげに見えた。遠い昔の事を思い出していたのかもしれない。メアリーはポタポタの間隔を早くしたり遅くしたりしてご満悦だ。


「さ、山越えたわ?キャンプの用意ね?進めば門が閉まる前にはつくと思うけど、わたしもキャンプめし食べたいなぁー?」


 速い。そしてモンスターとも会わず山越え。なんだそれ?遠くに王の城が見える。帰ってきたなぁ。


「ふふふ?これが神に近い者の力よ?神はいるけれどこの世界に手を出さないから…ふふ?」


「ヒルデさん、カレーで良いですか?」


「ふふ、ありがとう、キョーコちゃん。私が仕えた勇者様にも食べさせてあげたいなぁ?」


 勇者は人間。永遠に近い時を生きるハイエルフのヒルデさんにとっては、勇者様が亡くなったのも昨日の事のような、数世紀前の事のような、私たちには感じられない感情が籠っているんだろうな。


 キョーコは大きな鍋でカレーを作り始めた。ご飯も炊いてる。ヒルデさんの真面目な部分に戸惑いを隠せない。確実にいつかくる別れの時間、その事をうっすらと隠したヒルデさんの優しさを噛み締めているのかな。娘のジュリアがハーフと言えどもハイエルフの子供。本人が思っているより恐らく寿命が長いのだろう。その時私はどうなっているのか。キョーコと一緒に旅をしているのだろうか。兵士が辞められなくて兵士のままなのか。少し不安をかんじた。


「むほー!!辛くて美味しい!」


 そんな不安は口の周りをカレー色に染めるヒルデさんを見て吹き飛んだ。自由だな。この人。



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