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1 夢見る少女でいさせて

 あの頃の私は、おとぎ話の中でも勇者様の物語がすきで。あの頃の私は、当時の勇者様の物語がすきで。いつかは、勇者様のお供で世界を回るのを夢見ていた。


 友達からは勇者様のお嫁さんになるんじゃないのってからかわれもした。お嫁さんはお姫様がなるのが物語の定番だから、私では駄目だった。だからお供として敵と戦う。


 そんな夢を持ったから、私は一生懸命勉強した。運動もした。ただの村娘だったけど頑張った。私の住む村だと、同世代では私だけが王の都の学校へ行った。過去にはいたみたいだけど、現在までいない。もちろん家にはお金なんてないから勉強を頑張って特待生になったから行けたんだけど。


 学生の時は、貴族が上位成績者にいたけど、あいつらはお金で成績を買っていた。中には私なんかでは追い付けない位の凄い知識と運動神経を持った貴族の人達もいたけどほんの少しだった。片手で足りる。衣食住保証だから特待生になるために私は頑張った。


 学校を卒業した15歳の私は兵士になった。手紙を出したら返事が来た。親からは反対されたけど無視。ただの村娘だった私が夢を叶えるには、兵士になるしかない。村娘が勇者様と会う確率なんて高くはない。とくに私の住む村はゼロに近くない?過去の村の記録を見る限り勇者様は来ていなかった。この時の私には勇者様が良くくる村若しくは王の都に移住するという選択は思い付いていなかった。


 私は女だけど、この国には女性だけの部隊もあってそこへ配属された。あの暑い夏の日、隣の国との戦にも行った。数ヵ月前の春まで学生だったのに。この戦の最前線には勇者様もいるらしい。でもどの人が勇者様か私は知らない。でも、あのピカピカで無意味な鎧は王様の息子のへなちょこロビンだ。


 戦でも頑張った。私の班は後方支援だったはずだけど、隣の国が戦線を伸ばしてきて、何故だか最前線に立っていた。私の国は戦争が弱かった。でも頑張った。たくさんの敵を切り殺し、突き殺した。


 回りの敵も味方も倒れていった。魔法による攻撃がやむと、城壁の上からの弓部隊、投石隊によって。気がついた時には私の班は6人、何とか全員生還。周りからは奇跡だと称賛された。戦は引き分け。ただ引き分けたから隣の国とは平和条約が結ばれた。でも勇者様は戦死されたそうだ。


 どちらの国も軍縮が進んだ。私たちの班は王様の一声で近衛隊の中に編入された。近衛隊は槍と鎧が支給されるから助かる。戦で武器も防具もボロボロだ。終戦時は鎧が吹き飛んでいて片方の胸が丸見えだった。班のみんなも同じような状態だったけど。一番ひどかったメアリーは上は無事なのに下半身丸出しでお尻が…あ、いえ何でもないです。


 命令によって私達の班はとある部屋の警護をすることになった。この国で行われている異世界召喚の儀式を行う部屋だ。そこでは勇者様が召喚される。グッジョブ!王様。


 何人かの勇者様を城門から出ていくのを見送った。だいたい数ヶ月長くても一年以内に勇者様は旅立っていく。平和な世の中だけど技術を途絶えさせないため年一回、勇者様の召喚は行われた。王様は優しかったから平和な時代の勇者様には自由に冒険をするようにと束縛はしなかった。もちろん異世界からきてすぐの頃は手厚い保証をしていた。


 毎日の仕事は少しだけ退屈だけど、勇者様に少しでも関わる事のできる、この仕事が好きだった。もちろんお給料も良いからだけど。こんな毎日が続いて寿除隊ができればなぁ、なんて思っていた。できれば30までに。


 この世界に来てくれた勇者様を城門から見送るのは、これで7組目かな。私は22歳になっていた。何人かの勇者様は亡くなったと聞いた。男一人女複数で呼ばれた勇者様が二組と男ばかり数人で召喚された勇者様が死んだらしい。勇者様マニアな私でも、この勇者様達はちょっとね?


 戦は無いのだけれど私達の住む世界にはモンスターがいる。勇者様が住む世界にはいないらしい。ちなみにどの勇者様も同じ所から召喚されるみたいだ。召喚された直後に叫ぶ言葉が同じに聞こえるし、服装も似た感じだ。


 そんな勇者様の中には、モンスターのピラミッドの頂点に君臨するドラゴンに挑む、ちょっと頭が可哀想な勇者様も存在する。亡くなった勇者様達だ。だってドラゴンだよ?あの巨体で空を飛んで、火とか吹くんだよ?もうあれは災害だよ?地震とかと一緒。人間がどうこうできる存在ではない。


 この世界にはドラゴンが討伐された記録は存在しない。できてワイバーンまでだ。私?私はまだモンスターと戦ったことがない。戦でそれどころではなかったから。近衛隊に入ってからは城壁の外に出ていないからなぁ。


 7組目の勇者様を見送った年の冬、王様がお隠れになった。かくれんぼしてるわけではないよ?亡くなったんだよ?メイドの女風呂を覗くのに梯子を使っていたみたいなんだけど、そこから落ちたそうな。公式発表だと持病となっていた。確かに病気かもしれない。スケベを拗らせたな。そんな王様だけど私達は尊敬していた。嘘じゃないよ?本当だよ?


 王様の長男である王子が王様に即位した。まぁ、唯一の男だったからなぁ。姫達は他国へ嫁いでいたり、まだ成人してなかったり。私としては来年成人するカレン姫の方がトップに向いていると思う。


 あの王子はへなちょこロビンだからな。あの時の戦では最前線で勇者様の足を引っ張っていたらしい。どうも勇者様の死因がこいつらしいんだ。糞尿をもりもり漏らしていたと、近衛隊の他の班の殿方から聞いた。おっとこれ以上口にすると処刑されちゃう。


 また春がきた。私も23になるのね。そろそろ勇者様の召喚だなと思っていたら、へなちょこロビン王から信じられない言葉が発せられた。


「隣の国に進行するために優秀な勇者をたくさん召喚する。異論は認めない」


 なんですと?年一組限定だったんじゃないの?


 うんこもらしのバカ発言に驚く私の名前はマチルダ。勇者様の物語が好きな、ごく普通の女の子だった乙女である。

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