酒豪と銀龍
龍はこちらを見てグルルと唸り体の周りに青い稲妻を走らせている。星郎は目を擦りその神秘的で野性的な姿を目に焼き付けた。
星郎「なんまんだぶ、なんまんだぶ……」
跪いて合掌をしている星郎を見て少女は少し引いていた。
少女「あの……」
星郎「はい!なんでござんしょう、女神様!!」
顔を地面に擦り付け、裏返った声で叫ぶ。太陽の角度により星郎からは少女に後光がさしているように見えた。
少女「女神!?いや、そうじゃなくて……」
星郎「ありがたや、ありがたや……」
少女「私の話を聞きなさい!!」
龍にも負けないほどの声量で叫ぶ。
星郎「うおっ!!?」
そのあまりの勢いに土下座から一気に尻餅をついた体勢になった。
少女「ふぅ……私は女神じゃないわ。ベアーテ・ド・サン=エリックよ。こっちは相棒のペア。よろしくね。」
尻餅をついた星郎に手を差し出す。
星郎「早とちりしちまう性分ですまねぇな。俺は鬼伊達 星郎だ。」
手を取り立ち上がる。
ベアーテは小柄で星郎の胸あたりまでの身長だった。
ベアーテ「ショーローね。私、この辺りでライダーに会うの初めてなの。こんな、厳しい所に足を運ぶなんて余程のベテランしか来ないもの。」
星郎「俺はライダーじゃねぇぞ!ドライバーだ!」
胸を張り親指で自分の胸を指す。
ベアーテ「ドライバー?聞いたことないわね。」
星郎「いや、なんでもねぇ。忘れてくれ。(この世界にドライバーはねぇんだった。)俺はただの風来坊だよ。」
ベアーテ「風来坊ねぇ。そんな風には見えないけど。それにしても貴方の乗ってるモンスター、凄い迫力ね!ペアが警戒を解かないわけだわ。」
星郎「おお、酒豪丸だ。(やっと分かった。この世界の奴らは酒豪丸のことを怪物だと思ってんのか。)嬢ちゃんの龍には負けっちまうがな。」
ベアーテ「へへっ!そういえば、ノークルトンから来てたわよね。だとしたら、貴方ウォッカを運んでるの?」
星郎「まあな。開拓地のマスターに頼まれてよ。」
ベアーテ「偶然ってあるものねぇ。私も開拓地に用があるの。」
星郎「そうか………」
ベアーテ「どうしたの?」
星郎「いや何、ライダー同士ってレースとかすんのかなって思ってよ。」
ベアーテ「そんな珍しいことじゃないけど。」
星郎「よし、決めた!嬢ちゃん!開拓地まで俺と勝負しねぇか。」
ベアーテ「ええ!?まぁ売られた喧嘩なら、買ってげるわよ!」
ベアーテはすぐにペアにまたがり、星郎も酒豪丸に飛び乗った。
ペアは酒豪丸の隣につき、スタートの準備をした。
星郎もドアをしめアクセルに足をかけた。
星郎「位置についてぇ……」
ベアーテ「用意……」
星郎・ベアーテ「ドン!!」
先に飛び出したのはベアーテとペアだった。華麗に体をくねらせ滑る様な滑らかな動きで酒豪丸の正面を捉えた。
ギアを入れだんだんと加速していく酒豪丸。バンパーがペアの尻尾に付くか付かないかまで距離を縮めた。しかし、ペアは体を右へ左へと蛇行し先へ行かせようとはしない。
星郎「畜生……!」
ハンドルを何度も切り直し追い抜こうとするが長い体が行く手を阻む。
星郎「クソォ……怪我しても文句言うなよぉ。」
自分から勝負を仕掛けておいて少し悪い気もしたが更に深くアクセルを踏み込み強引に尻尾を押し除け前へ出る。
センタークラスターにかけてあったマイクを取り話しかける。
星郎「「よっしゃぁ!!どんなもんだい!!」」
ベアーテ「う〜〜!!ペア!上に飛んで!」
ペアは急速に高度を上げ酒豪丸の真上を飛び越し再び優勢に。
星郎「「おい!きたねぇぞ!!」」
ベアーテ「相手の乗ってるモンスターについて分析することも大事よ!」
後ろを向いて勝ち誇った顔をしたのに対し星郎はムッとし更に強引にペアの横にくる。
ペア「グゴオアアアア!!!」
ペアが咆哮をしてくる。星郎も負けじと酒豪丸のクラクションを鳴らす。
星郎「「おっし、ラストスパートだ!!」」
ベアーテ「勝つのは私よ!!」
気がつけば日も暮れ、酒豪丸はマーカーランプが光を灯しデッキとバンパーとペイントを目立たせる、ペアは群青色の爪と立髪が発光し銀色の鱗に光を反射させた。
大きな音と光を出しながら抜きつ抜かれつに走っていると、開拓地が見えてきた。
星郎「畜生……エンジンが吹っ飛んじまうぜ……」
ベアーテ「ペア……もう少しだけ頑張って……」
開拓地の酒場の前にはマスターが立っていた。
星郎「ヤベ!!」
星郎は一気にブレーキを踏み砂埃を出しながら減速していく。対するペアはピタッと綺麗にマスターの前で止まった。
2人はすぐにマスターへ駆け寄った。
星郎・ベアーテ「どっちが早かった!?」
マスター「あ〜……ショーローかな……?」
星郎「よっしゃぁ!!!!」
両手の拳を星空に突き上げ体をそらせる。
ベアーテ「そんな〜……!!」
ペア「ハァ〜〜………」
ペアは白い息を吐きその場に丸くなった。
ベアーテ「あ!ごめんね、ペア!無理させちゃって。」
ペアの下に駆け寄りしゃがみ込んで撫でているベアーテを心配しつつも星郎は荷物を出し始めた。
星郎「ほらよ。」
マスター「おお、思ったよりたくさん持ってきてくれたな。ほれ、給料。」
星郎の手には5枚の金貨が渡された。
星郎「ありがとさん。さて、帰るか。」
星郎が酒豪丸に乗り込み出そうとした時ベアーテとマスターが話しているのが見えたので見物する事にした。
ベアーテ「あ、そうだ。マスターさん、鉄鉱石を幾らか分けて欲しいのだけれど。」
マスター「ああ、勿論だとも。」
マスターは店の中へ戻り麻袋を肩にかけて持ってきた。
ベアーテ「ありがとう。ペア、ダンテまでもう一走りできそう?」
ぐったりとしたペアは動きそうも無い。
ベアーテ「ちょっと無茶しすぎちゃったかもね。」
星郎「乗れよ。」
ベアーテ「え?」
星郎「酒豪丸で連れてってやるよ。」
ベアーテ「いいの!?」
星郎「元々、勝負なんて言い出したんは俺だ。その龍は荷台で我慢してくれ。」
ベアーテ「だって。どうするペア?」
ペアは鼻息を出し少し浮いた。
ベアーテ「じゃあお言葉に甘えようかしら。」
ペアを荷台に寝かせ、ベアーテを助手席に乗せると星郎はドアを閉めてアクセルを踏んだ。
数十分後ダンテについた。
星郎「で、どこで降ろせばいい?」
ベアーテ「兵舎で降ろして貰えればいいのだけど。」
星郎「そうか。」
星郎「着いたぞ。」
ベアーテ「ありがとう。久しぶりに楽しかったわ。」
荷台からフラフラとペアを出し兵舎に向かわせる。
それを迎える様に兵舎から誰かが出てきた。
ベアーテ「あ、お兄ちゃん。」
カーネリック「ベアーテ、やっと着いたのか!ってショーロー!!?」
星郎「お前!!お前ら!!兄妹だったのか!?」
ベアーテ「知り合いだったの?」
カーネリック「昨日会ったばっかりだがな。ショーロー!!ベアーテにヘンなことはしてないよな!?」
星郎「誰がするかよ!!とにかく俺は帰って寝るからな!じゃあな!」
星郎「どいつもこいつも兄貴だ、妹だと狭い世界だな。」
驚愕の連続についていけず呆れ果てて眠ってしまう星郎であった。