仕事の時間だ
夜になり、ダンテに再び着いた頃、家の前にカーネリックが立っていた。
カーネリック「お、帰ってきたのか。丁度お前に用があったんだ。」
トラックから降り、家の大きな扉を押し開けながら星郎は質問をした。
星郎「なんだ。」
カーネリック「住民票を入れようと思ってな。」
再びトラックに乗り込みバックで家に入っていきが窓を開けて後ろを確認しながら適当に答える。
星郎「へぇ、良かったな。」
カーネリック「私のではない。お前のだ。」
星郎「なに?」
エンジンをきりトラックから飛び降りた。
カーネリック「住民票、いるだろ?」
星郎「俺はここに長居する気はねぇぞ。」
カーネリック「そう言うな。いつでも帰れるわけではないんだ。もしかしたら何年もここにいる事になるかもしれないぞ。」
星郎「……」
何も言い返せず、仕方なく住民票を入れる事にした。
カーネリック「それじゃぁ、着いてこい。」
星郎「分ぁーたよ。」
夜の街道は少なからず人が歩いており、道の上にはランプがフワフワとその場で浮いている。
民家の窓からはオレンジの優しい光と楽しそうな声、上品な料理の匂いが漏れ出していた。
星郎が壊した噴水には簡易的な柵が建てられ、中で修理が行われていた。
カーネリック「そういえばショーロー。その服はなんだ?」
星郎「あ?ちょいとあっちではしゃぎすぎちまった。」
カーネリック「全く、目の離せない奴だ。」
星郎「オメェに世話される覚えはねぇよ。それに仕事も見っけた。」
カーネリック「どんな仕事だ?」
星郎「酒の運送だ。」
カーネリック「ほぉ、なかなかハードなのを選んだな。向こうで手に入る酒はこの大陸の至る所からだ。受け取り先が不規則な上、運送中に盗賊に襲われる事も少なくない。」
星郎「なんとかなるだろ。」
カーネリック「話してるうちに着いたぞ。」
目の前には横長な建物があった。出入り口の回転扉の上にはなんと書いてあるか分からないが看板が立て掛けてあった。
中は銀座バーの様な雰囲気で薄暗い明かりが上から少し降り注いでいる。
カーネリック「すまない、この人の住民票を登録したいんだが。」
役員「分かりました。ではこちらへの記載をお願いします。」
カーネリック「よし、ここに住所と名前だ。それと職業と誕生日、手の指紋と血液型だな。」
星郎「…………」
口をポカンとあけ書類と睨めっこをしていた。
カーネリック「そうだった。字も書けないんだったな。貸してみろ。」
カーネリックは書類を自分の方に向けるとサラサラとペンを走らせ、あっという間に全ての空欄を埋めてしまった。
カーネリック「後はお前の指紋だけだな。」
黒い朱肉と書類を差し出した。
星郎は右手の親指から順番に指紋の判を押した。
カーネリック「よしよし、これが右親指だな。」
指紋の下にメモを入れ役員に差し出す。
役員「登録完了しました。こちらをどうぞ。」
数分後、木製のクリップボードに何枚かの書類が挟まれた物を渡された。
カーネリック「1番上は保険証、病院で診察ができる。次に権利書、上から領地権、人民権、原告権、投票権、職務権。それと国王権限承認書、1番下が身分証明だ。無くすなよ?」
聞いたことのない権利やら書やらであまり理解できなかったがとにかく大事な物だということは理解した星郎はゆっくりと頷いた。
家に帰ってみると、いつの間にかカーネリックの部屋と同じような配置で家具が置かれていた。壁にはスケジュール用の黒板が貼ってある。本棚の中には幾つかの分厚い本が入っていた。
星郎「なんじゃこりゃ?」
カーネリック「私からのプレゼントだ。」
本棚の本を取り出してみる。
カーネリック「それは幼稚園生用から小学生用までの読み書きの教科書だ。私が余った時間を使って教えてやる。」
星郎「そりゃどうも。」
投げるように元あった場所に戻す。
結局考えた基本的なスケジュールは次のようになった。
3:00 起床
3:30 出勤
12:00 受け取り&現地で昼食
17:00 開拓地に到着、荷物の引き渡しと次の依頼を聞く
19:00 帰宅&夕飯
19:30 カーネリックの家庭教師
20:30 酒豪丸の点検
21:30 就寝
明日は一度、開拓地によりマスターから詳しい話を聞く事になっている。
カーネリック「おっと、そうだった。もう一つプレゼントがある。」
カーネリックから大きな地図が渡された。
カーネリック「書いてあることが分からないだろうから今から私が言う地域にメモをしておけ。」
星郎は言われたとおりにメモをしその日は就寝した。
次の日の朝、夜明け前に目が覚め酒豪丸に乗り込み開拓地へ向けて出発した。
未だ寝静まっている街道には緑と赤の光が通り過ぎていった。