金 酒 仕事
星郎はビリーの首を頭から抱え込み膝を少し曲げると次の瞬間伸ばしてビリーを持ち上げそのまま自分ごと後ろへ倒れこんだ。店の床は大きく凹んだ。
仰向けに倒れた2人は刹那、息が出来ず倒れていたがすぐにビリーが立ち上がり星郎の両足を両脇にかかえ振り回し投げた。星郎はカウンターの奥に飛び酒瓶が大量に置かれている棚に背中からぶつかり棚と一緒に倒れた。瓶の割れる音が連続して聞こえる中、星郎は棚を持ち上げビリーに向かって放った。棚ビリーの頭にあたりバラバラ飛び散った。ビリーはふらついた足を無理矢理立て直し、棚の残骸の中で大きい者を手に取り息を切らしていた星郎の頭に叩きつけた。
店の床には酒と血で濡れて客達も笑い事では済まない空気になっていった。
ビリー「俺の……勝ちだな……」
絞り出したかの様な声を出し星郎に言い放つ。
星郎「…………」
何も言い返さない。立ったまま気絶している。
肩や足に瓶の破片が刺さり瞬きもせずずっと睨み続けている星郎にビリーが背を向け足を引きずりながら店を後にする。
星郎「ぷはっ……!!ゴホッゴホッ……ハァハァ……!
水を顔にかけられ目を覚ます。
星郎は荷車に寝かせられ服は脱がされ身体の至る所に包帯が巻かれていた。
マスター「気づいたか。」
バケツを持ったマスターが覗き込んでいる。
マスター「全く、派手に散らかしてくれたよ。ウチは大損害だ。」
星郎「すまねぇ……俺、金が無くて……今すぐ店の金を払うこたぁできねぇ……」
上半身を起こし悔しそうな顔をして言った。
マスター「それで?」
荷車に肘をかけ片方の眉毛を上げ聞き返す。
星郎「お前の店で働かせてくれ。ただ働きで……酒の運送ならできる。」
マスター「……………」
顎に手を当てしばらく考え込み交渉は成立した。
星郎「で、その前にここにきた理由なんだが……軽油ってあるか?」
マスターは優しく微笑み親指を後ろに向けた。
指の先にはレンガで作られた大きな建造物で何本もある巨大な煙突からは煙が吹き出していた。
マスターに連れられその建物に来てみた。
工場は大きな川の近くに建てられ厳重に警備されていた。
マスター「お〜い!俺だ!!分かるか!?」
建物に向かって大声を出すと中から1人の職員が出てきた。
職員「なんでい!」
マスター「この兄ちゃんがなぁ、軽油が欲しいんだとよ!」
職員「おう、ほうか!んじゃついてきぃ!」
中へ案内された。中では星郎のいた世界の様な機会はなく代わりに大量のローブをまとった者達が煙突と繋がっている大きなタンクとそれに繋がっているパイプに赤い光を放っていた。
職員「ここだぁ!毎回精製する時に余る軽油なんて使い道がねえからよずっとここに溜め込んでたんだよ。ゴミみてぇなもんだからタダでも譲ってやっけどよ、なんでこんなもん欲しがるんでい?」
星郎「気にしなくていい。これを幾つかのドラム缶に分けれるか?」
職員「あいよ!2時間程待っててくれい!」
2時間待つ間星郎は酒場の掃除と片付けを手伝うことになった。
マスター「まぁ、焦るな。その前に服をやる。」
星郎「ふく?」
自分がパンツ一丁だった事に気がついた。
マスター「悪いな。お前さんの服はもうボロボロだとかみさんが捨てちまった。これを着てくれ。」
クローゼットの中から持ち出したのはこの街に住んでいる者と同じカウボーイの服だった。
星郎「ありがと。」
正直、星郎はこの服装が好きではなかった。何故なら自分を負かしたビリーと同じ服装だからだ。
星郎は酒場の床に水を巻きデッキブラシで擦り、マスターはカウンターの近くに散らばった酒瓶やら棚の残骸やらを片付けていた。
マスター「まったく、お前さんもバカだねぇ。まさかビリーに手を出すたぁよ。」
星郎「さっきから気になってたんだが、ビリーって何者だ?」
マスター「ビリーは史上最速といわれるガンマンだ。あまり人前には出ず、俺もみたのは両手で数える程しかない。だが、奴が現れた時は決まって変人が来るもんだ。」
星郎はずっこけそうになった。
星郎「あらっ!」
2時間後 軽油が積められたドラム缶が8つ程届いた。
職員「こいつぁサービスでい!」
ドラム缶の口にスポイトの様な物が差し込まれていた。
荷車にドラム缶を乗せ4往復程し全てを酒豪丸に積み込んだ。内、1つを燃料にしいつでも走れる様になった。
星郎「んじゃあ、また明日来るわ。」
マスター「おう、気をつけてな。」
荒野の中を走り抜ける酒豪丸を見ながらマスターは独り言を呟いた。
マスター「モンスターのライダーも大変だな……」