寝るところ
星郎「へへっ……やりぃ!!」
逃げていくワイバーンとそれを宥めようと慌てている青年をサイドミラーで見ながらガッツポーズを決める。
もうしばらく走ると青年が追ってくる様子もなくなったのでスピードを落とし周りの地形を確認する。
帰る方法が分からず、帰れたとしてもいつになるか分からない。このまま走った所でガソリンが切れればおしまいでどこか寝床を見つけたい。
しかしどこまで行っても平野、平野、平野。
星郎「………戻るか…」
ハンドルを切り、再びダンテに向けてアクセルをは踏み込む。
見覚えのある建物が同じ様に後ろへ流れていく。案の定あの青年達が待ち構えていた。
深〜くため息をついた。エンジンを切り、ドアを開け、閉めながら飛び降りると即座に囲まれた。
星郎「わ〜ったよ!勝手にあそこに停めたのは悪かったよ!」
両手を上げて無抵抗の意を示す。
青年「他に言うことは……??」
軽蔑する様な目で青年が見つめてくるので少々腹立たしく感じた星郎だったが生きてくためには仕方がないと腹を括り続けて言った。
星郎「え〜と……話を聞き終わる前にお前の襟を掴み上げた事も、噴水をぶっ壊した事も、お前のトカゲを跳ね飛ばした事も俺が悪かったよ!!」
青年「よろしい……とは言っても聞きたいことはまだまだある。少しついてきてくれ。お前達、そのモンスターを見張ってろ。」
酒豪丸の事を気にするも渋々青年の後について行く。街を進んでいくと大きな建物が増えてきた。
その中の1つに入っていった。
星郎「なぁ、坊主。」
青年「私にはちゃんとカーネリックという名前がある。カーネリック・ド・サン=エリックだ。
それに私は今年で24だ。」
星郎「は!?俺と同い年かよ!そんなガキみてぇなツラして!?」
カーネリック「なに!?お前こそ老けすぎだろう!30後半には見えるぞ!?」
星郎「だいたいなんだその名前。母ちゃんにつけてもらったのか?」
カーネリック「そうだ。我が一族の姓を受け継ぐに相応しい名をと母がつけてくれた。」
星郎「はぁ〜外国の文化は分かんねぇなぁ……」
カーネリック「ほら、着いたぞ。私の部屋だ。入れ。」
木製の扉を開けると中には石造りで赤いカーペット、整理された右の壁一杯の本棚と反対の壁にはベット、窓際の机。真ん中には特に特徴も無いテーブルと椅子が置いてある。大きさにして4m×4mの大きめな部屋だ。
星郎「随分と古臭い造りだな。まるで中世時代だ」
カーネリック「ちゅうせ……なんだそれは?」
星郎「はは〜ん…オメェ勉強ができねぇな?」
カーネリック「馬鹿を言うな!自分で言うのもなんだが私は訓練兵時代を首席で卒業したんだぞ!」
星郎「へぇ……1+3は?」
カーネリック「お前、馬鹿にしすぎだろ……いいから本題に入るぞ!そこに座れ!」
星郎「へいへい。で、何から話す?」
カーネリック「まずは、名前と職業からだな。」
星郎「鬼伊達 星郎 運搬業」
カーネリック「キダテ・ショーロー…聞かぬ名だな。運搬業……あのモンスターは営業用か?」
羊皮紙に羽ペンを走らせ続けて聞く。
星郎「モンスター?あぁ、酒豪丸のことか。まぁそうだな。」
カーネリック「あのモンスターはシュゴーマルと言うのか。え〜と、出身は?」
星郎「愛知県 ※※※市」
カーネリック「……?」
星郎「あぁもう!面倒くせぇな!日本だよ、日本!!ジャパン!」
カーネリック「???……住所不明っと……」
星郎「……」
カーネリック「さて、要点をまとめると……聞かぬ名、奇怪なモンスター、存在しない地名……もしかしてお前、精神疾患を患ってたりしないか?」
星郎「……」
カーネリック「これ、幾つだ?」
カーネリックが星郎の前で指を広げて答えを求めるので小さく舌打ちした後答えた。
星郎「2……」
カーネリック「ふむふむ……この指見えるか?」
今度は一本指を立て、いろんな方向に動かしていった。星郎はその指を目で追った。
星郎「よーく見えますよ。」
カーネリック「ここに自分の名前を書いてみろ。」
羊皮紙と羽ペンを渡してきたので名前を書こうとしたが。
星郎「俺、羽ペンなんて使わねぇよ……」
カーネリック「あぁそうか。じゃあこっちを使ってくれ。」
窓際の机からつけペンを取ってきてテーブルに置いたのでまぁこっちならなんとかとペンを走らせた。
星郎「鬼伊達 星郎っと。」
カーネリック「んんん〜〜!??」
カーネリックが文字を二度見したので何事かと思えば、今までカーネリックが書いていたのは蛇の様にグニャグニャと曲がった線が並んでいた。
星郎からすればそれが字には到底見えなかった。
カーネリック「なんだこのカクカクした文字は?」
星郎「いや、お前の方こそなんだよそのグニャっとした線は。」
カーネリック「決まりだな。」
星郎「何が?」
カーネリック「お前は別世界から何らかの方法によってワープしてきたんだ。いや、私も信じられないがそれ以外考えられない。同言語で会話できていること自体不思議な程文化の違う世界からな。」
星郎「…………」
星郎は一度周りの景色を確認し、カーネリックの書いた文字を何度も確認して自分の頬をつねった。
星郎「なぁ、ちょい俺を殴ってくれねぇか。」
カーネリック「あぁ……」
カーネリックの拳が星郎の顔面にヒット。
星郎「マジかよ……いてぇよ……」
鼻血を垂らしながら手を震わせ混乱した表情をする。
カーネリック「私も信じられないから安心しろ。」
星郎「いや、オメェは大丈夫だろうが。俺は、俺は、俺は……」
カーネリック「私達もなんとか帰る方法を探してみよう。それまではここで暮らすといい。丁度この辺りにあのモンスターも住めそうな空き家もある。
たくましく生きていてくれ。」
星郎「……」
突然の展開に開いた口が塞がらない。
考えてみれば地形といい人々の様子、服装、住居といい自分が理解できないものが多かったのも当然だと昨日今日のことを振り返っていた。
カーネリック「分からない事を考えたって何も起きないぞ。とにかく今おまえがすべきことは行動する事だ。ほら、案内してやるからシュゴーマルを迎えに行くぞ。」
星郎「そうだな。」
元いた広場に戻ると複数の鎧をきた者達に酒豪丸が囲まれていた。
カーネリック「異常はないか?」
兵士「はい。本当に生き物なのかと思うほどピクリとも動きませんでした。」
星郎「ほらほら邪魔だ。どけぃ!」
周りから人を追い払うと運転席に乗り込んで天井に取り付けてあるマイクを使いカーネリックに呼びかけた。酒豪丸のデッキに付いているスピーカーからは星郎の声が街中に響いた。
星郎「「乗れよ。案内してくれんだろ?」」
カーネリック「えっと、確かここをひねるとここが開いて……お!できた!」
星郎「よ〜し、一丁飛ばすか!」
カーネリック「まずここを真っ直ぐ行って5つ目の角を右に曲がれ。」
星郎「オッケイ!!」
キーを回すとエンジンの回る音と前タイヤと後ろタイヤの間にあるマフラーから大量の煤が出る音が轟いた。
カーネリックはいきなりの出来事でポカンとしている。星郎はそんなこと気にせずクラッチを踏み込み右手をハンドルに、左手をギアレバーに乗せ、クラッチを踏んでいる足をアクセルに持っていき踏み込んだ。一瞬車体が大きく揺れゆっくりと前に進み始める。
エアブレーキの音と共にギアを変え徐々にスピードが増していく。