馴れ合わない
久々の整備されていない道。
ドアポケットの中でカタカタと音を立て揺れる缶ビール、鼻の上で踊る様に飛び跳ねるサングラス。
そして隣には少し変わっているが美女。
地元のトラックドライバーならば一度は夢に見る状況だ。20代前半でその夢が遂に叶ったとサイドガラスに映る自分に向かい微笑む星郎。
シープ「嬉しそうですね。」
サネルと名乗る女の右腕人形が話しかけてくる。
星郎「まあな……」
シープ「まだおっしゃってはいませんでしたが私達は簡単な読心術ができるのでなぜ嬉しいのかは見当が着きます。」
星郎「なんだ、オメェ手品師でもやってんのか?」
視線を前方に向けながらそれとなく聞いた。
シープ「いいえ、私達はモンスターの研究をしています。」
星郎「へぇ〜……(こんな田舎にも暴走族が出んのか。てことは警察なのか?)大変だなぁ……」
シープ「ええ、でもすごくやりがいを感じます。少しでも皆さんの役に立てるので。」
星郎「仕事にやりがいを感じるか……最近の若い奴らはナヨナヨしたのしかいねぇと思ったのによぉ。
カッコいいじゃねぇか。」
サネルの頬が少し紅くなるのが視界の端で見えた。
日が高く昇った頃、道の横にポツポツと民家や畑が見え始めた。
星郎「あれ?待てよ。この辺りには山がねぇのか?」
シープ「山ですか……ここをずっと行けばMt.サータがありますがそれ以外では丘くらいしか無いですねぇ……」
星郎「聞いたことのねぇ山だな。そういやぁ嬢ちゃんの行きてぇ所ってのはなんて名前だっけか。」
レダー「知らないのか!?ダンテはこの国でも屈指の商業流通が盛んな街だぞ!?名前くらい知ってるだろ!」
星郎「うんや……1番都会ってのは東京じゃねぇのか?」
シープ「トーキョー?」
レダー「なんだそこは?お前もしかして外国人だな。」
星郎「んああ。多分そうだと思う。」
シープ「多分って……」
星郎「俺も分かんねぇんだ。昨日の夜いつも通りの道を走ってたら事故りそうになってよ、気が付いた時にゃあここにいたんだ。」
レダー「不思議な話だなぁ。事故った衝撃でここまでふっ飛ばされたんじゃねぇのか?」
星郎「それにしちゃあ酒豪丸の凹みも俺の怪我もねぇんだよ。」
シープ「もしかしたらぶつかった衝撃で次元に穴が開いて一種のワープの様に遠くの国からやってきたのかも。」
星郎「………?まぁとにかくこれが夢か、はたまた神様の悪戯のどっちかだろうな。早く帰る方法を見つけねぇと今週分の給料カットされちまう……」
畑が少なくなっていき、代わりに周りの建造物が増えてきた。時計を見ると出発から丁度4時間が経っていた。
サネルは揺られながら眠っていたが星郎は本当にここで合っているのか分からず不安になっていった。
その内道を歩く者達も増えてきてトラックで進むのが難しくなってきたところでサネルを起こして確認する。
レダー「う〜む……もう少し寝かせろよ……」
星郎「寝ぼけてても腕人形で話すのかよ。ここなんだろ来たかった所はよぉ……」
シープ「は……!ついうとうとして……ここですここです!ありがとうございました!またご縁が有れば会いましょう!」
星郎「おう。」
レダー「これ、少ないけどとっといてくれ。」
3枚のコインが手渡された。
星郎「この国の通貨か?」
レダー「おいおい、通過まで違うのかよ。この通貨は全世界共通の筈なのに。」
シープ「それでは!」
サネルが降りて間もない内に周りには人だかりができ、馬に乗った団体の行列も入ってきた。
星郎「おいおい、今度はなんだ……ここ駐車禁止か……にしちゃあ警察もこねぇしなぁ……この馬の団体、邪魔クセェな!!」
ハンドルをバンッと叩きクラクションを鳴らすと馬はこぞって前脚を高く上げ馬から落ちる者もいた。
その馬を落ち着かせたリーダーと思わしき青年がガラス窓越しに睨みつけてくるので星郎もかけていたサングラスを指で持ち上げ睨み返した後、窓を開けた。
青年「我らはダンテに駐屯している兵団だ。こんなモンスターを街中に連れ込んでタダで済むとおも……何をする!」
青年が話し終わらない内に星郎は窓から身を乗り出し襟首を掴み運転席まで持ち上げた。周りからは驚愕の声や叫び声が聞こえてくるが今はこの場から離れたいという一心で星郎の耳には聞こえていなかった。
星郎「テメェが何者か知らねぇがなぁ、今はんなこと関係ねぇんだよ……!馬鹿に付き合ってる気分じゃねぇんだ!とっととそのいけ好かねぇ奴ら連れて失せねぇと全員轢き殺すぞコノヤロォ!!おら、行けぇ!!」
投げ捨てる様に手を離すとギアをRに切り替えて器用に人を避け180度向きを変えると猛スピードで行くあてもなく走り始めた。
青年の態度に頭にきていた星郎はオラァ!と言わんばかりに街の噴水にバンパーをぶつけて半壊させた。
青年は笛を吹き街の奥から走ってきた巨大な翼のある二本足のトカゲの様な生物にまたがり酒豪丸の後を追った。
その様子をサイドミラーから見ていた星郎はギアを上げながら加速していく。
青年「くそ!あんな巨大で何故あそこまでスピードが出せる!」
青年のまたがっているトカゲ、もといワイバーンは酒豪丸より二回り程の小ささで飛んでいても最高時速は103km/h程、星郎の愛車である酒豪丸は現在ギア5でアクセル全開、時速115km/h。
しかし、圧倒的に速度が違うわけでもないので酒豪丸の真後ろにワイバーンがいる状態になっている。
星郎「ケッ……しつけぇトカゲだぜ……」
ブレーキを踏み込むとワイバーンは減速仕切れず、荷台の後ろに鈍い音を立てぶつかる。少しフラフラした後、首を振り意識を取り戻すとワイバーンの目の前には鬼の形相をした龍がペイントされた酒豪丸の荷台があった。
ワイバーンは急に後ろを向き逃げていった。