2つの世界
アデーレ「そうです!帰れますよ!貴方の世界に!半年後!」
アデーレ「あ、あ、あれ?あ、あまりう、う、嬉しそうじゃ無いですね?」
星郎「半年?」
アデーレ「半年。」
星郎「他に方法は?」
アデーレ「よ、400万年かかります。きゅ、97%の確率で失敗しますが。」
星郎「なんで半年もかかんだ?」
アデーレ「し、質問がお、多いですね。ちょ、ちょっと着いてきてください。」
アデーレは星郎の袖を掴み、強引に引っ張っていった。
星郎「なんだってんだよ!」
隣の小さな家に連れてこられた。
アデーレ「こ、こ、ここが私の部屋です。」
アデーレの部屋はかなり異質で壁は全て黒板でできておりめちゃくちゃな字やら図形やらで埋め尽くされていて床には本がいくつも積まれている。窓の近くには水が円状になって浮いたものが2つあり、明らかに生活ができる様な部屋では無い。
星郎「ゲホッゲホッ!!ひでぇ部屋だなぁ!ったくよぉ!」
アデーレ「アメイ!!ジング!!いますか!?」
小さな部屋で叫ぶと本の山の間から2人のそっくりな小さなだるまの様な老人が出てきた。
アメイ「なんじゃあ!そんな大声ださんくても聞こえとるわい!」
ジング「ああ〜?アメイ、なんかいったかのぉ?」
星郎「おいおい、この世界は兄弟多すぎねぇか?」
アメイ ・ ジング「いいえ、全く血縁関係はありませんが?」
星郎「何故今のが聞こえた。」
アデーレ「お、お、お戯れはさておき、ショーローさんこちらをご覧ください。」
アメイとジングは窓の近くにある2つの浮いた水を移動させて平行に並べてその中を除いていた。
アデーレ「ええ〜と、CE28k銀河、CE28k銀河〜っとあった!それから…………あったあった!ショーローさん!貴方の故郷はあれではありませんか?」
星郎「??」
星郎も水の中を覗くとそこにはだいたい青が7割、緑が3割の惑星がぽつんとあった。丁度、その真ん中には弓形の列島があった。
星郎「ああ……あっ…」
その時、星郎にとてつもない安心感が湧き上がり、思わず膝が崩れて涙が溢れてきた。そして走馬灯の様に親、地元のトラック野郎、故郷のことが次から次へと思い浮かんできた。
星郎「やっぱし、帰りてぇ……帰りてぇよぉ……!!親父ぃ……すまねぇ……!!」
アデーレ「ちょ、ちょ、ちょっと!なんで泣くんですか!?」
星郎「るせぇ!泣いてねぇよばかぁ!チョークの粉が目に入ったんだよ!」
アデーレ「い、いや、あ、あれだけ気持ちぶ、ぶ、ぶちまけてそれは無理があるでしょう……」
星郎「スン……ン゛ン゛ゲホッん!で……半年、半年待ちゃあ帰れんだな?」
アデーレ「ま、任せてください!わ、わ、我々、異星魔法研究会の総力を持ってして、貴方を送り返してあげます!」
星郎「そうか……すまねぇな。俺の為にそんな大事になっちまって……」
アデーレ「あ、異星魔法研究会は私とアメイとジングの3人だけですよ。」
星郎「あ、そう。とにかくありがとよ。」
心が落ち着いた星郎はアデーレの家を出て自宅へ戻った。
星郎「あ、なんで俺の故郷が地球だって分かったんだっけ?まぁいいや。」
独り言を呟きながら窓から差し込む夕日をボーっと見ていた。
カーネリック「おい、ショーロー!帰る方法見つかったのだな!記念して私達と食事でもどうだ!」
ベアーテ「全部私達が奢るわよ!」
星郎「全く、騒がしい兄妹だぜ。人が思いにふけってるってのによ……お〜〜!!行くぞ!」
大声で返事をして階段を駆け下りる。玄関の前にはカーネリック、ベアーテ、ペアがいた。
カーネリック「仕事が早く終わったのでな。」
ベアーテ「私も。」
星郎「奇遇だな、俺もだ。」
カーネリック「この世界の食事には慣れたか?」
星郎「そんなに俺のいた世界と変わらねぇぞ。」
カーネリック「信じられんな。文字だけ違って文化はほとんど同じなんて。」
星郎「そっちのが好都合ってもんだ。それより早く行こうぜ。」
カーネリック「そうだな。近くに私の行きつけの店があるのだ。」
星郎「ていうか嬢ちゃんの龍も来んのかよ。」
ベアーテ「まぁね!」
徒歩で10分ほど歩くと豪華なレストランに着いた。
中も外見通り高級そうな雰囲気。テーブルには赤いテーブルクロスと逆さまに置かれたワイングラス、天井に、レッドカーペット、壁には四角形に彫られた穴が並んでおりその一つ一つに蝋燭が置いてある。
星郎「ここが行きつけ!?どう見たって高級レストランじゃねぇか!フラフラっと入れる様なところじゃねぇだろ!」
カーネリック「おい、大声を出すな。他の人達の迷惑だ。」
口に指を当てながら横目で見てくるカーネリックを星郎は血管の浮き出た拳を顔の前に持っていきながら睨んだ。
ウェイター「ご予約された、エリック様御一行でいらっしゃいますね。お席の準備はできております。どうぞこちらへ。」
星郎「うっへぇ〜かった苦しいこって。」
カーネリック「星郎。全く、お前というやつは礼儀がなっていないな。」
星郎「会って1週間も経ってねぇ奴に言われたくねぇよ。」
ベアーテ「もう、2人ともやめてよ。」
先に座る3人。
3人のグラスにはすぐに水が注がれる。そして置かれる。3対のフォークとナイフ、そして2本のスプーン、バターナイフが。
星郎「あ…………」
そのテーブルセットを見た瞬間、星郎は汗を流し始める。蘇るトラウマ。
実は3年前、星郎には彼女がいた。しかし、誘われたレストランで食器を使いこなせず幻滅され振られた。そんなトラウマから星郎は高級店には近づかなかったのだ。
星郎(なんで食文化が一致するんだクソッタレ!!)
カーネリック「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」
星郎「そ、そうか?いやぁ、俺、こういう雰囲気の店って慣れなくてな!暑いなぁと思って。」
カーネリック「まあ、お前のことだ。マナーがさっぱり分からないんだろう。」
星郎「ま、まぁな……(なんでこんな時に限って鋭いんだ。)」
最初に運ばれたのはオードブル。アボカドと海老のカクテルソース。
カーネリック「簡単だ。端のフォークとナイフから使えばいいんだ。」
星郎「端だな……この、1番小さいやつか?」
震えた手でフォークとナイフを掴む。
ベアーテ「言っても食事よ?そんなに緊張することないわ。」
フォークとナイフを器用に使い、パクパクと口へ食べ物を運びながらベアーテが言う。
星郎「そ、そう…だよな。アハハ!!」
自分の緊張を隠す様に笑い、フォークでアボカドを突き刺し口に運ぶ。
星郎「おっと!美味いな!ソースと海老の風味がしっかりと合ってる!」
スープ、魚料理、口直しのシャーベット、肉料理が順番に運ばれてきた。
すっかり食べ方に慣れた星郎はどんどんと運ばれてくる料理を平らげていった。
カーネリック「さて、そろそろ聞きたいんだが?」
ナプキンで口を拭きながら真面目な口調で聞いてきた。
星郎「何を?」
カーネリック「お前のいた世界について。」
星郎「ん〜……世界とかそんな規模のことはよく分からねぇが俺の地元の事なら話してやれるぞ。」
ベアーテ「気になる。」
星郎「俺の育った所はな、デコトラってのが流行ってたんだ。デコトラってのは酒豪丸みてぇにデコレーションしたトラックのことだ。生き物じゃねぇぞ。」
カーネリック「やはりあれは人工物だったのか。」
ベアーテ「え!?そうだったの?なんで教えてくれなかったの!?」
カーネリック「信じられるか?あんな巨大な動く家の様なものが人の手で作れるなんて。」
ベアーテ「まあそうだけど……」
星郎「とにかく、デコトラが流行ってたんだ。最近のトラックはみんな質素で最低限の飾りしかない。
元々、トラックの運搬は自営業だったらしいんだが俺の生まれた頃にはみんな会社でやってた。つまりトラックなんかは全部支給品で装飾なんてできなくなった。そこで俺の親父は村の仲間と自分で会社を作った。デコトラで仕事できる会社をな。売り上げはそこそこで働き手はみんな村の知り合いだから大分楽しいしみんな熱い。親父はいつも言っていた。親父の頃はもっと熱い時代だったてな。今の社会は熱さが足りないとよ。」
カーネリック「よく分からんがお前の父上は立派なのだな。」
星郎「そんな立派でもねぇさ。ただ頑固なだけだ。
まぁ、俺がデコトラに乗り出したのもそんな熱い時代を取り戻したかったからなんだがな。」
ベアーテ「さっきから言ってる熱いって何?」
星郎「嬢ちゃんが龍と一緒に仕事してる時、気合が入るだろ?それとおんなじだ。」
ベアーテ「何となくわかるかも。」
星郎「俺は冷め切った社会に熱を灯したいと思ったんだ。」
カーネリック「その割にお前は熱くないな。」
星郎「!?」
カーネリック「いや、厳密には熱く無くなってしまった様だ。」
星郎「どういうことだ!?テメェ?」
カーネリック「この世界に来てからその熱がなくなったんじゃないか?理由は分からんがな。」
星郎「………」
カーネリック「図星だな。」
星郎「あぁ、そうだ。俺はもう、昔の様に走れねぇ。少なくとも元いた世界ではな……!!」
カーネリック「…………」
続けろと言わんばかりに無言で星郎を見つめる。
星郎「人を……引いちまったんだよ……」
カーネリック「…………」
星郎「その直後だ……!!この世界に来たのは…!」
カーネリック「お前、もしかして帰りたくないのか?」
星郎「両方だ!帰りたい。また、地元の奴らとワッパを回してぇし、被害者も報われない!でも帰りたくない!捕まれば酒豪丸にはもう乗れねぇし、この世界もまだまだ知りてぇ!」
カーネリック「だが、両方は選べない。後、半年だ。それまでにどっちか決めるべきだ。」
星郎「あぁ、分かってるよ……」
ウェイター(なんだ、この空気……デザート持ってきたけど……お渡ししにくい……)