9.迷子
「デカすぎて草生えてるどころか森が茂り酸素倍増だわ」
学校を見た時の私の最初の一言。誰も理解してくれないだろう。
簡潔に言うと、学校が巨大でドン引きしているという事だ。まるでお城に来たような気分だ。
この光景は今までの記憶を辿っても少しもない。……ということは、まさか、今日が入学式? 今日からニュースクールライフ?
私のことを全く知らない人達の中に飛び込めるってことになる。まぁ、以前から交流のあった天使たちのことは置いておいて、悪魔とは初の知り合いになる。
……お? つまり、まだ出会っていないのなら出会わなければいいじゃん。知り合いにならなければ、お互いに関わることなく学校生活を終えることが出来る。
私と悪魔たちの恋を見たかった方達には申し訳ないが、私は一人で長閑に生きていくぞよ。
ヒロイン失格だと罵ってくれても構わない。というか、むしろヒロインという立場を誰かに買ってもらいたい。闇市とかで私の役を売れたりしたらいいのに……。
いくらぐらいで落札されるんだろうな。ちょっと気になる。
「それで……、ここはどこだ?」
ヒロインの値段について考えていると、気付けば迷子になっていた。
こんなにも大きい校舎だ、誰もは絶対に一度迷うだろう。逆にすんなりと目的地に行ける人達は天才だ。崇め奉ろう。
しかも迷子になった場所が……、ここ森じゃん。
あたり一帯見渡しても木しかない。いや、なんで学校に森があるんだよ。自然学習でもするのかい。
空気は新鮮で美味しいが、私の今の状況は孤独でまずい。
「どの方向に行ってもますます迷う気がすんだよね」
どうして校舎が見えないのか……。この学校に着いた時は、お城みたいにどでかい校舎を目にしたはずなのに。一体私はいつ森に迷い込んだんだろう。
まぁ、今日が入学式なら、別に授業で後れを取るってことはないだろう。気長に行こう。
一度死んでしまっているんだ。現世ぐらいはゆったりまったり生きても誰も叱りはしな……、母に怒られるか。
「おい、ギルト、こっちは校舎じゃないぜ」
透き通った声がどこからか聞こえた。
人が来る? 助けてもらおう!
「寝ようぜ~」
「天使の皆様達は今頃真面目に学校に出席してるんだろうな」
なんか嫌な予感がする。
天使の皆様だって? それに……、この皮肉。
……これさ、乙女ゲームのヒロインと最初に出会うイベントじゃね? 森に迷子になった所を遭遇し、少し変わった天然で心優しいヒロインに自然と惹かれる悪魔達じゃ……。
ということは、今から来るのって攻略対象者達じゃん! 嘘でしょ。聞いてない!
どうしよう。木とか登るほどアクティブでもなけりゃ、悪魔達と自ら交友関係を結ぼうなんて考えようとも思わない。
よし、こうなりゃ絶対に声を掛けられないオーラを放ってやろう。
私は彼らの声から逃げるように少しだけ歩き、少し木が少なく小さな池がある場所に出て目を瞑り、思い切り座り込んだ。
必勝! 座禅! 仙人オーラを放っていたら話しかけてこないだろう。
無になるんだ。私、何も考えるんじゃない。
「お? 見ろよ。誰かいるぞ」
「本当だ。まさか先客がいるとはな。からかってやろうぜ」
……ん? 待てよ。羽があるじゃん。だから皆迷子にならないんだよ。
今頃、そんな初歩的なことを思い出したが、もう遅かった。