6.家族と対面
部屋に入ると、もう既に家族全員が揃っていた。
巨大で長い机に皆が座っている。一体、何人の人間がこの机に座れるのだろう。
父と母が並んで座っており、その向かい側に兄と弟が座っている。私が座る場所は兄と弟の間みたいだ。
父の名前はジャック・ベーカー、知性を感じさせる藍色の瞳を持っている。母はヴィクトリア・ベーカー、私の瞳の倍以上の濃さのピンク色の瞳。
どうして母親の名前がヴィクトリアなのに対して、私の名前はユユなのだろう。台風が来ても頑丈でピクリともしなさそうな名前と、小さな風で今にも飛ばされそうな名前。
どうして親子でこうも正反対なのだろう。私も威厳のある名前が良かった!
兄はオーカス・ベーカー、父より少し淡い青色の瞳をしている。まぁ、美形から生まれたから彼も相当なイケメンだ。端麗なその顔に女の子は一回は惚れるであろう。
そして、弟、リュカ・ベーカー、水色の瞳にもっちもっちの頬、もうよだれが垂れそうなぐらい可愛らしい。本当に天使だ。……いや、まぁ、ここにいる皆天使なんだけど。
兄は二つ上の十八歳、弟は三歳。つまり、私は十六歳。完全に人格が出来上がっているのに、今日から豹変する。なんだか少し申し訳ない気持ちが生まれた。
ちなみに、悪役令嬢は私と同い年で、攻略対象達は……、ギルト、ロアール、ジェイルが十八歳だったはず。ハーヴィーは一つ上の十七歳で、トマスだけが私と同い年だ。
「何ボーッとしているの? 早く座りなさい」
母の言葉に私はハッと我に返る。
「あ、すんまそん」
軽く首を前に倒し、誤った。
その様子に場が固まった。まだ物心のついていないであろうリュカでさえ驚いている。
そして、母はまじまじと私を見つめる。どうやら普段の私と格好が違うことにも違和感を覚えているみたいだ。
え~、それは見逃しておくれよ、母さんや。
どこから突っ込めばいいのか分からずに周りにいた使用人たちを含め皆が困惑している。その中でもベラだけが落ち着いている。
これは何か発した方が良いのか? いや、けど余計なことを言ってまた困らせてもなぁ……。
「おはよう、ユユ」
さっきのを聞かなかったことにしたのか、母は気を取り直して私に微笑みながらそう言った。
「おはようございまんぼう」
前世の癖で咄嗟にそう答えてしまった。
……あちゃ、やっちまった。
母親は露骨に怪訝な表情を浮かべる。
これはしょうがない、私が悪い。けど、そのうち私のこの性格にも対応できるようになるだろう。最初が肝心だ。新しいものは皆受け入れがたいものだ。だが、この先ずっとこの性格なら皆も変化に適合できる。
この無茶苦茶気まずい空気に耐えながら私は席に着いた。