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廃人がヒロインなっちまった  作者: 大木戸 いずみ
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5.ベラとの約束

「悪くない!」 

 作り終えたピアスを耳に付け、鏡で確認した後、私は満足気な表情を浮かべた。

 このぼさ髪にこのピアス、そして、この格好、何か格好よく見えてきたぞ。……やはり素材というものは大事ですな。

「お嬢様、朝食のお時間でございます。身支度が整いましたらいらしてください」

 軽いノックの後に、ベラの声が部屋に響いた。

 朝食の時間も決まっているのか……。なんか前世の記憶の方が濃厚で、現世の記憶が薄れつつある。

「今行きやす」

 私は短くそう返事をして、扉を開けた。ベラは私の変化にもう適応したのか、もう戸惑いの表情を一切見せていない。

 今の私の格好を初めて見たのに、眉一つ動かさないなんて……。これがプロフェッショナルか。

 私は彼女のそんな様子に感心した。 


「ベラ」

「はい?」

 いきなり話掛けられるとは思っていなかったのだろう。私の後ろを歩いていたベラが驚いた様子で聞き返した。

「私って友達いるの?」

「え? 友達……ですか?」

「うん」

「お嬢様のような素晴らしい方には沢山の方が好意を寄せていると思われますが、その方達を友達と呼ぶか否かはお嬢様次第なのでは」

「成程。エクセレントな回答だ」

「はい?」

 さっきの「はい?」とは違い、今度は心の乱れを感じさせる返答だった。

「ベラは私のことが好き?」

 なんかメンヘラみたいな言葉だなと思いながらも私は口にした。

「勿論でございます」

 彼女は落ち着いた声で即答する。

 仕事上そう言わないといけないの分かってって聞いたんだけど、やっぱり本音を聞き出すことは不可能か……。もし私の侍女じゃなくなっても好きでいてくれるかと聞かれたら、きっと何も言わないだろう。

「お嬢様みたいに心の優しい方に仕えることが出来て大変光栄です」

 付け足すようにそう言った。

 ベラが私を信頼しているのは確かなようだ。今までの私の業績だな。まぁ、これからどんどん失望させていくのだろうけど。

 人と関わるのが嫌いなわけじゃない。ただ、マグマよりもどろどろとした人間関係が苦手なだけだ。蜘蛛の巣のように複雑に絡み合うあの複雑な関係の中に出来るだけ入りたくない。

 私は一人が好きなのだ。「廃人が偉そうなことを言うな」と思ったそこの君、あんたは正しい。

 そう、私なんかが偉そうなことを言える立場ではない。

「ビジネス上で良いから私と手を組もう」

「は?」

 流石のベラも顔をしかめた。

 頭のおかしな人を見るかのようにして私を見つめている。流石のベラも私の考えにはついてこれなかったようだ。

「私のすることをこれから絶対に両親には言わないで」

「何をなさるのですか? ……まさか犯罪に手を染めるのですか?」

「あ、それはないない。ただ、ベラにとって少し変なことをするかもってこと」

「……今でも十分変な行動をなさってるのでは」

 小さな声でボソッと彼女は言葉を発した。

「否めん」

「大変失礼いたしました。失言でございました」

 ハッと我に返ったようにベラは私に頭を下げた。

 それと同時に、大きな扉の前に立っていた執事が私に一礼し、「お嬢様、おはようございます」と言ってから、その扉を私の為に開けた。

 うむ、なんとも堅苦しい世界だな。私はきっとお嬢様不適合者だ。どうして私みたいな廃人がこんな可愛らしい輝くヒロインになれたのかは未だに謎だ。

「約束いたします。何が合っても旦那様と奥様にはこれからのお嬢様の奇妙な行動を口外したりは致しません」

 後ろでベラが真面目な口調でそう言ったのを聞いてから私は部屋に足を踏み入れた。

 どうしてこんな事をベラに約束させたのかというと、うちの両親は滅茶苦茶怖いのだ。理由はそれだけ。

 そりゃもう、何か悪いことしたら般若のような顔をして私を怒るのを知っている。

 ヒロインの両親は子どもに対して甘いイメージを持っている人が多いだろう。だが、うちは違うのだ。『よそはよそ、うちはうち』なのだ。

 父親にはデレデレに甘やかされて育ったが、母親が鬼だ。勿論愛情はたっぷり注いでくれるが、母は厳しい。彼女が最上級に怒らせると地球が滅びるのではないかと思うほど……。

 前世の記憶を思い出す前のユユとして覚えている数少ない記憶の中でそれだけ覚えている。

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