31.夜
イモコとの出会い、放課後掃除、最後に母からの説教……今日は一段と疲れた。
これから平穏な日々を送れるとは思えない。てか、まだ悪役令嬢、ビアンカに会ってないし!
ああああああ、私の平凡な日常! 一体いつ手に出来るのやら。
……ゲームやりたい。すっげえ強い剣手にして、地球を守りたい。
「いっそ、作るか? ……無理だ。私馬鹿だから機械とか全く分からない」
はぁ、どうしてこんなことになったんだろう。あの入学式に迷子になったのがいけなかったのか……。
そして、今日、意味の分からない校則を一つ知った。天使はむやみに羽を出してはいけないみたいだ。悪魔は良いのに何故天使はダメなんだ。よく分からない。
是非この乙女ゲームの製作者の電話番号を教えて欲しい。男尊女卑ではなく悪尊天卑だと文句を言ってやりたい。いや、時には天尊悪卑にもなりえるのう。……やっぱり文句は言わないでおこう。
今のこの現状に向き合い、どうしたら気楽に学園生活を送れるかを考えようじゃないか。
……トランプとか良い案じゃね?
この世界にはカードゲームというものがない! ババ抜き、七並べ……スピード!
「よしッ! 作ろう!」
私は早速引き出しから頑丈な紙取り出し、小型ナイフで切る。私は、手先が器用なのが取り柄だ。体力は人並みだし、成績も滅茶苦茶トップというわけではない。
そういや、通知簿によく『やればできる子』と書かれたなぁ。
切った紙に丁寧に数字を書いていく。美術は得意科目だったから、絵を描いたり、字を書くのは自信がある。
「こんなに一生懸命作ってるけど、一緒にゲームする友達がいない、ぼっちつら」
悪魔達には馬鹿にされそうだし。かといって、天使の友達はゼロだし。今じゃ完全に学園で浮いているからな、私。つらたんたんめん。
……いやこうなったら強制的にやらせるか。
あやつら、今日も散々私のことを馬鹿にしたんだ。嫌でもババ抜きやらせるぞ。
そして、絶対勝ってみせる。歴が違うんだ、私が勝手当たり前だ。これでようやく彼らに勝てる者が出来た。
コンコンッと扉を叩く音が部屋に響く。
私は、急いで最後にジョーカーを描き終え、扉を開ける。
「お、リュカじゃん。どうした?」
小さな弟が本人と同じぐらいのクマのぬいぐるみを片手に持って、私の部屋の前にいる。クマはだらんと地面について、ここまで床をすりながら引っ張られてきたことが分かる。
「ねえね、おはなしして」
……おお? こんなことを言われたのは始めてだ。
前世の記憶を取り戻す前のヒロインのリノにはそんなこと頼まなかったのに……。
おねえじゃん、うれじいよ、全米が号泣だよ。
「任せときな」
私は力強くそう言って、彼を片手で持ち上げて部屋に入れた。
キャッキャッと声を上げて笑い疲れて眠るまで、リュカに作り話を沢山した。
人魚姫が実は上が魚で下が人間だったとか、母の前世は般若のお面を作る職人だったとか。ばれたら怒られそうだけど、リュカが笑ってくれたからそれでいいのだ。
「グッナイ、ハブアスイートドリーム、マイキュートブラザー」
私の腕の中で寝ている弟のさらさらの髪の毛を撫でながら、ちょっと外人っぽく言ってみた。
なぜなら、今の私は金髪だから。地毛金髪! 万歳!




