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廃人がヒロインなっちまった  作者: 大木戸 いずみ
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29.放課後掃除2

「ひゃやく、手をひゃなしてくだしゃい」

 全然上手く話せんのう。

 別に掴まれている頬は痛くない、むしろ私を傷つけないように優しく掴んでくれている気がする。悪魔の癖に、変なの。

「家に帰っても楽しくないだろ」

 ……へ?

 家は天国なんじゃないの!? 私の場合、ゲームはないし、母様が怖いしで、天国とは程遠いことになっているけど。

 悪魔の家なんて、パラダイスハウスでしょ! 完全に偏見だけど……。

「ギルしぇんぱい」

「何だ?」

「おにゃらしてもいいでしゅか?」

「は?」

 そう言ったのと同時に、彼は私の頬から手を離してくれた。

「これで私の頬が無事解放された」

 勿論、おならはしない。もし仮にしたくても、人前では我慢だ。女は我慢強く!

「みんなの家楽しそうだし、むしろ悪魔水入らずの遊びとか絶対楽しいじゃん」

「確かにそれはそうだな」

 私の言葉に何故かハッとした表情を浮かべ、私に同意するように頷く。

 何故そこまで学校に残りたがるんだろう。昔の私なら一目散に家に帰って……って、そもそも学校なんてほとんど行ってなかったわ~。

「悪魔だけが一番気楽だ」

「ほれ、言ったとおりじゃろ?」

「どうした、いきなり老け込んで」

「やめい、まだピチピチの十六歳にそんなこと言うなし」

「……お前は、天使の集まりとか行きたくねえのか?」

 絶対に嫌だ。

 お世辞の言い合いとか無理。天使同士何て絶対に気を遣う。前世の記憶取り戻す前は出来たかもしれないけど、今はもう無理じゃ。わしゃ、もう無理じゃ。

「最近の若い子とは話が合わん」

「お前さっき自分でピチピチの十六歳って言ってたじゃねえか」

「天使にもいろいろ事情があるの」

「どうせくだらない理由だろ」

 私の言葉にギルトは鼻で笑う。

 その態度に腹が立ち、私もまた言い返してしまうのだ。 


「賑やかだね~」

 ニヤニヤしながらハーヴィーが楽しそうな表情を浮かべる。

「ユユって馬鹿なのかしら」

「馬鹿だろ」

 シャルロッテの言葉にロアールが即答する。彼の灰色の目にギルトとユユのうるさく言い合っている姿が映る。その横でジェイルが愛らしい笑顔と共に口を開く。

「ギルトが家に帰っても面白くない理由はユユちんがいないからなのにね」

「お兄様のあんな楽しそうな姿、久しぶりに見ましたわ」

「ギルトってあんな顔できるんだな。他の奴らを虐めている時と笑い方が違う」

 ハーヴィーがじっとユユとギルトの様子を見ながらそう言った。

「流石色魔のハーヴィー、よくギルトのこと観察してるな」

「安心しろ、トマス。俺はお前のこともちゃんと観察している」

「気持ちわり」

 トマスはハーヴィーの発言に顔をしかめる。

「確かに、ユユといる時のお兄様、生き生きしているものね」

「久々に骨のあるおもちゃ見つけて、面白いんだろうな」

「……いいおもちゃ、だけだといいんだけどね」

 トマスの言葉にジェイルが含みのある笑いを浮かべた。

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