27.個別指導3
「……早く出ていけば?」
私が嫌そうな顔でそう言うと、イモコが頬を膨らます。
どこぞのアイドルなんだい。これで何人の男が落ちるんだろうか。まさか本当に頬を膨らまして、機嫌を損ねた態度を表す人間がいるとは……。
「ぶりっ子」
「え? なにそれ? ぶりっ子?」
およよ、この世界ではぶりっ子というワードがないのか。
「ぶりぶりおならしてる女の子のことだよ」
……うわぁ、自分で言っておいておいてなんだけど、品性疑うわ。私、汚いな。
「はああ? 私、おならしないわよ」
「嘘つけ、さては人間じゃないな」
「そうよ、人間じゃないわ。悪魔だもの」
「悪魔でもおならするだろ!」
「しないわよ! ユユがおならするんでしょッ!!」
「うん」
「ほら、やっぱり天使もおならしないじゃない、悪魔だけ陥れようなんて……、は? え? おならするの?」
いや、逆にしない方が怖いっしょ。
しかも、私、前世酷かったからな。部屋でずっとパジャマのまま漫画読んでおならとか普通にしてた。だって、誰も見てないし、誰もいないし、被害者ゼロだから何にも悪くない。
人前じゃしないけど、生きてたら誰でもおならはするんだ!
「イケメンだっておならするじゃん。勿論私も」
「ユユ、貴方、それは言っちゃいけないわよ」
この世の終わりかのような表情を浮かべながらイモコは口を開く。
「なにゆえ」
「夢を壊しちゃだめよ。貴方、中身は置いておいて、仮にも美少女なんだから……、中身は置いておいて」
何故二回も言ったんだ。
「おい、お前らもっと品のある会話できねえのか?」
ギルトが呆れた様子で私達にを見る。ジェイルはずっとニコニコしながら私達を見ていて、トマスとハーヴィーは笑いを堪えている。ロアールはため息をついて、今にも私を罵倒しそうだ。
うむ、男性陣いたことをすっかり忘れていた。というか、何よりここは学園長室だ。
「ユユといたら私の品性が下がるわ」
「とかいいつつ、私のこと好きなくせに」
「な、調子に乗らないでよね!」
今朝会ったばかりなのに、イモコは私の言葉に顔を赤くする。
見た目は大人っぽいのに、からかうと面白いな。
カタカタと何かが小刻みに震えている音が聞こえる。……地震か?
一体何が揺れているのだろうと、音がする方に目を向ける。
「わお」
更年期先生が怒りで全身揺れている。彼女の振動により棚に並べられているティーカップが小さく震えているのだ。
こんなことある? まさか人間が地震を生み出すなんて。やっぱりゲームの世界は凄いな。
「八ッハッハ」
おい、学園長笑ってる場合じゃねえよ。先生の怒りをしずめてくれい。
「学園長! この行儀の悪い生徒達に罰を与えるべきです! 教師に対する敬意を持つように指導しなければなりません!」
SORENA☆
顔を林檎のように真っ赤にして起こる彼女に同意だ。学園長を呑気に笑っている場合じゃない、彼らに罰を与えましょう!
「愉快で楽しいじゃないか」
「校舎の掃除とかいいんじゃないですか」
「ベーカー君、君はいつからこっち側なんだい? 勿論、君にも罰を受けてもらうよ」
「……は?」
当たり前だろ、と皆のハモる声が聞こえた。こういう時だけ一致団結とかひでえよ。
「ちょ、ちょっと待ってください。彼らが勝手に盗み聞きしてたんですよ?」
「ええ。けど、こういうのは連帯責任でしょう」
「そうだ。元はといえばお前のせいで盗み聞きすることになったんだからな」
「土に埋めるぞ」
トマスの言葉に反射的に私は答える。
「ということで、皆さん、放課後の校舎掃除頑張ってください」
「悪魔ですか?」
「いえ、私は天使です」
そう言って、学園長はニコッと目尻をくしゃくしゃにして笑った。




