25.個別指導
厳重な大きな扉の前で私はノック出来ず、暫くぼんやりと立つ。
……これ、先生の部屋じゃなくて学園長の部屋じゃね?
なんで、ここに呼び出されてんの、私。まさか、更年期というあの一言で退学処分とか……?
「ユユだけ呼び出しなんてかわいそ~」
後ろから楽しそうなイモコの声が聞こえる。
「なんでイモコは無罪なんだよ」
「そりゃ、先生をちゃんと尊敬しているから」
ついにイモコ呼びにつっこまなくなったか。……慣れって怖いな。
「どこが」
「私は先生に更年期とか言わないわよ」
「むむむ」
「……何それ」
眉間を寄せて反応した私に、イモコは怪訝な表情を浮かべる。
「反応に困ったリアクションを声に出してみた」
「馬鹿じゃないの」
イモコは私の言葉に声を上げて笑う。彼女の笑い声は廊下に反響している。
……うるせえ。見た目は色気ムンムンねえちゃんなのに、そんな馬鹿笑いするなんて……やれやれだぜ。
「静かにしなさい」
突然、バンッと大きな音を立てて目の前の扉が開いた。更年期の先生が物凄い形相で私を睨んでいる。
「え、今の笑い声はこやつなんだけ……」
指を隣に向けたが、そこには誰もいなかった。
イモコめ、逃げやがって。今からただの芋に降格させるぞ。
「早く入りなさい」
「う、うい」
いつから私はフランス人になったのだろう。出来れば「ノン」と言いたかったけど、彼女の威圧に負けてしぶしぶ学園長室に足を踏み入れる。
それにしても、お金持ち学校というのはなかなか凄い。学園長の部屋何て宮殿じゃないか。高級そうなものばかり置いている。
前世に私が通っていた学校の校長室なんてこれの四分の一だ。
それに、こんなハニーレモンティーの匂いなんてしなかった。緑茶の匂いだった。……それはそれで落ち着いたけど。
学園長は、じっと、大きな窓ガラスから外を眺めている。顔は分からないが、髪の毛は金髪だから、彼はきっと天使なのだろう。
……正面の壁が窓ガラスなのは、生徒たちを監視するため?
「怖え」
「何か?」
私の小さな呟きが聞こえたのか、更年期先生は眼鏡を光らせて私をギッと睨む。
「ふふふ」
私たちのやり取りの何が面白かったのか、学園長が笑った。
この世界の人達の笑いのツボがいまいち分からん。
「貴方がユユ・ベーカーですね?」
そう言いながら彼は私の方を向いた。
茶色のたれ目のおじさん、……優しそうに見えるけど、結構腹黒なんだろうな。
「返事は?」
「あ、はい」
隣の更年期先生が怖い。なにこれ、恐怖尋問じゃん。ここは学園長室という名の取調室?
「君は先生に失礼な態度を取ったのかい?」
「自覚がなかったのですが、先生を怒らせてしまったのならそうなんでしょう。申し訳ないと思っています。特に授業中に騒がしくしたのは反省しています」
「ふふ、君は面白いですね。昨日の出来事といい」
ゲッ。やっぱり知られていますよね、昨日の靴投げ事件。
「元気があるのはいいことですよ」
学園長はずっと穏やかな口調で私と話す。……喋りにくい。
更年期先生の方が考えが表情に出ていて、話しやすい。この学園長は何を考えているのかさっぱり分からない。
「ベーカー君、私は君とゆっくり話がしたくてこの部屋に呼んだんだよ」
彼は目を皺くちゃにしてニコリと笑う。可愛いおじさんだな、と思いたいが、少し恐怖を覚える。
「私はしたくないっす」
「何か言った?」
私の返答をもみ消すような強力な視線を隣から感じ、私は「何にも言ってないです」と大きな声で即答した。
……やっぱり更年期先生、怖え。
読んでいただき誠に有難うございます!
更新が遅くなってしまい誠に申し訳ございません。
毎日、コロナの話が続いておりますが、少しでも楽しんでもらえたらなとこれから毎日投稿をしていこうと思います。よろしくお願いします!




