19.美少女悪魔との会話 1
「えっと、大丈夫?」
しゃがみながら彼女に声をかける。
……無反応。死んでいるのな? 悪魔がそう簡単に死ぬとは思わんが。
「おーい」
彼女の身体を軽く揺らしてもピクリとも動かん。これはラッキー! この道を通らなければ、学校に行かなくて済む。これは仕方がない。母も私を責めまい。今日はしっかり休んで、明日から学校に行こう。
ああ、神様! ついに私の味方になってくれたんっすね!
「よし、道を引き返そう」
勢いよく御者の方を振り向く。声は出ていないが、彼が「は!?」と言ったのが分かった。
「ちょっと待ちなさいよ」
私が場所の所へ戻ろうとしたら突然声が聞こえた。
……おお、生きていたのか。それならもっと早く反応してくれよ。
「助けなさいよ」
ゆっくりと顔だけをこっちに向ける。黒い髪の隙間から紫色の綺麗な瞳が私を見つめている。
うわ、美少女。悪魔の顔面偏差値高すぎない? 私のこんなキリッとしたつり目が良かったな。キャピキャピ可愛いアイドルよりもお色気ムンムンの美人系キャラの方が好みだ。
世の中、なりたいものにはなれんように上手く出来ているんだな。
「私、魔力を消耗しすぎて動けないのよ」
「なんの義理で悪魔を助けにゃならんのだ」
私の言葉に紫色の瞳が散瞳するのが分かった。後ろにいる御者も驚いているのが背中から伝わった。
あれ? あたしゃそんなおかしなことを言ったかい? むしろただで助けてもらう方が怖いんだけど。後で、何を要求されるか分からないじゃん。それに、ここは前世の常識が通じない場所だし。
「貴女天使でしょ? お得意の慈悲の心はどうしたのよ」
「天使が皆天使のような性格をしていると思うことなかれ」
「……何よ。あれでしょ、私が悪魔だからでしょ? 天使様達は私達悪魔を忌み嫌っているものね」
いや、相手が天使でも私は助けないよ。そこは誰が相手でも変わらんぞ。
「嫌ってるのはそっちもじゃね?」
「何よ、その馬鹿っぽい喋り方は……。どうせ、誰も私を助けてくれないのよ……」
「そんな病むなって。案外人間一人でも生きていけるぜ」
顔の隣で親指をグッと立てる。
……けど、うちらって人間じゃないか。まぁ、もう今頃気付いても遅いか。
悪魔は私の行動に引いたのか露骨に怪訝な表情を浮かべる。せめてなんかコメントしてよう。寂しいじゃん。
「それに私、別に悪魔のこと嫌いじゃないし」
「はぁ? 意味が分からないわ。じゃあ、なんで助けないのよ」
「う~ん、もし私が君の立場なら、誰かに頼らず自力で何とかするからかな。それに、君を助けても私にはなんの利益にもならない」
「……どういうこと? 天使は見返りを求めず助けるのが普通でしょ?」
「普通って誰にとっての普通?」
「それは……」
私の言葉に彼女は言葉を詰まらせる。
まぁ、確かに私は意地悪だと思うし、人でなしかもしれない。人じゃないけど。
本音を言うと、変な攻略者達に絡まれて大変なのに、他の悪魔にまで気を配っている暇はないということだ。ごめんちょ。
「はぁ、分かったわ。貴女は何が望みなの?」
彼女は呆れたようにため息をついて、紫色の瞳を真っ直ぐ私に向けた。




