16.悪魔ギルド
……なんなんだあいつ、最高に面白いじゃねえか。
女に初めて靴なんて頭に投げられた。いや、男でも俺にそんなことをしてくる奴はいない。
「ギルド、大丈夫か?」
ハーヴィーが心配そうに俺の顔を覗き込んだが、俺の顔を見るなり顔を引きつらせる。
今自分の身に起こったことがあまりにも面白くて、耐えきれなくなり盛大にふき出した。
「さっきの靴で頭がおかしくなっちまったぜ」
「ギルドがこんなに笑うなんて珍しいね~」
トマスとジョエルの声が近くで聞こえた。
あの女の方が相当頭がおかしいぞ。最初っからおかしくないところがなかった。足を組んで座ってたり、俺らに怒鳴ったり、変な所しかなかったな……。
きっとかなり良い所のお嬢様だろうが、全く女らしい動きをしていなかった。髪の括り方も雑だったし、ピアスもシンプルで華美な感じは一切なかった。
けど、透き通るような白い肌とぱっちりとした大きな全てを見透かしたような何故か聡明さを感じさせる淡いピンク色の瞳、鼻は鼻筋がシュッとしていて高く、形が整った薄い唇。簡潔に言えば童顔だが、彼女は美しい。あんなに可愛らしくて天使の象徴のような顔をしているのに、行動は大胆で、時折見せる視線はとても大人びていて、興味を持たざるを得ない。
むしろ、あんな奴を無視しろという方が難しい。
羽を綺麗だと言われた時は、嬉しいと同時に苛立ちを覚えた。
かつて天使が俺ら悪魔の羽を褒めるなんてことをしたことがないからだ。その逆で、いつも罵られてきた。「気味悪い」などということを言われ続けてきたのだ。疑ってしまうのも無理はない。
まぁ、彼女がいちいち俺の機嫌を取るようなことは言わないとはなんとなく分かっていたが、それでもやはり疑ってしまった。
それと、少し彼女を試したというのもあった。本当に綺麗なら、俺が苛立っても反論してくるかと思っていた。
しっかりと、反論してくれたが、まさか、頭に靴を投げられるとは思っていなかった。それは流石に想定外だ。
「ヒーローみたいでカッコいいか」
ボソッとそう口に出すと、ロアールは小さくため息をついて、口を開いた。
「悪魔相手に一体あいつは何を言っているんだ。本当の馬鹿なんだな」
そんなことを言いながら、彼の口調は少し柔らかかった。
ああ、ついに手ごたえのあるやつが現れたか。あいつの行動は全く予想が出来ない。俺の虐めにどこまで反抗してくるのか楽しみだ。
「うげ、ギルドがニヤついてるぞ」
ハーヴィーの言葉で俺は無意識の内に口角が上がっていることに気付いた。




