12.攻略対象者VS私 3
どうしてギルトと私の声が重なるんだよ。一応私、ギルトと初対面だよね。
何故、ギルトがあたかも前から私の性格を知っていたかのように答えるのだ……。
「つか、可哀想にこの天使ちゃん。ギルトに完全に標的にされたな」
「もう逃げられないね~。ギルちゃんは一度捕まえた獲物は逃がさないからね」
ハーヴィーに便乗するようにジェイルがニコニコ笑顔でそう言う。
なんて悪運なのだろう。私の優雅で悠々自適の生活は何処へ……。これがヒロインの運命なのかな。
「悪魔の王子に天使のご令嬢が虐められるなんて良い絵面だな」
「そうか? 気色悪いだけだ」
トマスが楽しそうに笑う横でロアールが初めて口を開いた。
おお、初めて声を聞いた。低く透き通った良い声をしている。確か、人気急上昇中の声優さんが演じていたんだよね……。
皆、顔も良いし声も良いしスタイルも良いし、その上お金持ちだし……。性格が捻じ曲がっていてもモテる理由が分かるわ。
てか、ギルトって王子だったんだ。……そうか、思い出してきたぞ。悪役令嬢は天使の姫だった!
これはヒロインの私なんかじゃなくて姫と王子が付き合った方がいいのでは? そもそも、どうして私はヒロインなんだろう。
普通、平民とか凡人とか、この世界だったら人間がヒロインになるべきでしょ。どうして中途半端なお嬢様の私がヒロインなのか疑問でしかない。
考えてみておくれ、可愛くて少し変わっていて優しい美少女なんてこの世界じゃ数えきれないぐらいいるはずだ。その中でもヒロインは別格に可愛いってぐらい……。
「そうか、やっぱり世の中顔なのか」
「は?」
私の独り言にギルトは眉をひそめた。
「ヒロインって外見だけで選ばれたんだ……」
「何言ってるんだ?」
「私が絶世の不細工だったらきっと標的にしないっしょ?」
くるっと少し首を回転させてギルトの顔を見上げた。私とバッチリと目が合い、彼は固まる。
何も言い返さないってことは肯定しているのと同じだ。
「てか、まずさ、ギル……先輩が私を虐めて、私が仕返しするって発想はないんっすか?」
一応、年上だから先輩呼びしなければ。
私の質問に彼はますます訝し気に私を見つめる。何か変なこと言ったっけ?
「……なんで俺の名前知ってるんだ?」
へ? あれ? 彼ら自己紹介……してない!
前世の記憶を頼りに私が勝手に名前を知っていただけだ。いや、でも、皆彼のことをギルト呼びしていたからここはまだ言い訳が出来る。それに彼は有名人だろうし。
「他の方達が名前呼んでたし」
「ああ、成程な。……で、お前の名前は?」
「え、言いたくないんだけど」
「は?」
なんて怖い顔してるんだよ。殺意に満ちたその表情に私は一瞬身震いした。これが悪魔か。確かにこの表情とこの雰囲気を醸し出せるのは悪魔だけかもしれない……。
「嘘っす。ユユです。名前も顔もフリー素材なんでどんどん悪用してもらって構いません」
「ユユか、簡単な名前だな」
「いじるとこがなくて残念だよね」
しょんぼりと眉を八の字にして私がそう言うと、ギルトは破顔した。
「お前のいう台詞じゃねえだろ」
その顔はまずいっすよ。モザイクかけて下さい。目に悪すぎる。その笑顔で何人の女の子を気絶させることが出来るんだろう。
全員のフルネームを知っていたがギルトから皆の名前を軽く紹介してもらった。
彼の紹介で分かったことはロアールが超がつくほどの天使嫌いだという事だ。私への敵視が半端じゃなかった。




