11.攻略対象者VS私 2
「こいつ見ない顔だな……。新入生か?」
「ということは、俺と同い年か」
もぎたてフレッシュ! オレンジ色の瞳のトマス私をまじまじと観察する。
そっか、トマス以外皆先輩なんだった……。私よりも年上なのにこんな稚拙な悪戯をするなんて……。
「無反応だし、このまま落書きしようと思えばできるんじゃない?」
ハーヴィー意地悪そうな表情を浮かべる。
カチンッ、激おこ。人を舐めるのも大概にしろ! あ、間違えた。廃人を舐めるのも大概にしろ!
「やってることが民度低すぎて引くわ、ドン引きだわ」
「うわッ」
いきなりその場に立ち上がった私に対して、ハーヴィーは尻餅をついた。
他の皆は、目をパチクリさせながら私を見つめた。勿論、ギルトも片手にペンを持ちながら、目を見開いて驚いている。
「どうせならもっと派手なことしなよ! それでも悪魔?」
もうここまで来たら勢いとノリだ。私は声を張りながらハーヴィーを指差してそう言った。
「鼻だけつまむとかやってること小さいんだよ。どうせなら首でも絞めて窒息死させるぐらいのことをしろ!」
今度はギルトを指差しそう言った。
「そして、あんた! 頭良いんなら無口のクールボーイを装わないで悪知恵働かしなよ!」
次に、灰色の瞳の眼鏡をかけているいかにも賢そうなロアールを指差しながら声を上げた。
「それからあんた! 可愛い! 合格! 以上!」
最後にジョイルを指差した。全て言い終えたころには、息が切れていた。
久しぶりにこんなにも声を出した。普段、声を出してこない生活をしていたもんだから、発声にすら体力を使う。
少しの間、皆が目を丸くして固まっていたが、その沈黙を破るようにしてギルトが大きな声を上げて吹き出した。
まさかこのタイミングで笑われるとは思ってみなかった。というか、笑うツボなどどこにあったのだろうか。
ギルド以外の皆も彼が笑っている様子に驚きと戸惑いを見せている。まるで彼が笑うことが珍しいかのようだ。
彼の笑顔の破壊力半端じゃないな。今にも鼻血が出そうだ。ギルトだけでなく、皆顔整い過ぎてもはや気持ち悪いぞ。これ以上彼らといたら、目だけでなく全細胞が溶けて、原形をとどめられない。
やっぱり彼らと関わらない方が良いな。
「んじゃ、これにて失礼」
そう言って、その場を立ち去ろうとした時、グッとギルトに素早く首に片腕を回された。簡単に言うと、今の私はギルトに軽く首を絞められている状態になっている。
「グェ」
アヒルのような声が出てしまった。
なんて色気のない……。「キャア」とか「いやん」とか可愛らしい台詞が咄嗟に出てくるような女の子になりたかった。
「どこ行くんだ」
「……校舎っす」
「もう遅刻だろ」
「天使は真面目だから遅刻しても行くんっすよ」
「ここで足組んで寝ていた奴が何言ってんだよ」
ごもっとも。っていうか、言い方が悪い。寝ていたわけじゃない。瞑目といってくれ。
……この世界には座禅というものがないのだろうけど。
そんなことよりも、早く腕を離してくれい。近すぎて心臓に悪い。鼓動が速くなるのが分かる。
勿論これは、異性に対し恋としてドキドキしているというよりも、ただの緊張からくるドキドキだ。
「何も言い返さないのか?」
「いや、肯定せざるを得ないなと思いまして」
私の返答にまたフッとギルトは笑う。
「やっぱり変な奴だな」
誉め言葉なのか、貶されているのか……。前者で合って欲しい。
いや、待てよ。悪魔に褒められても別に嬉しかねえ。むしろ貶された方が善い人なのでは? 天使には褒められ、悪魔には貶されが一番良い!
「てか、この子すっげえ可愛い顔してるね」
「「顔だけな」」
ハーヴィーが発した言葉に対して私とギルトの声が見事に重なった。




