10.攻略対象者VS私
「見ろよ! あいつ天使だぜ」
「何してるんだろう?」
無になるのだ、私。ここはひとまず無視して、反応しないのが一番。
視線を全身で感じる。周りの様子が見えないが、凄まじいオーラを放ち、ギンギンに輝いた美形の悪魔達が私を囲んでいるのが分かる。
これが攻略対象者達の力か……。負けていられないぜ。我を忘れ、俗世界から離れよう。
「おい、天使。起きろよ」
「学校に遅刻するぜ?」
修行の邪魔をしないでくれたまえ。つか、もう学校には遅刻している。私が迷子になってからかなり時間が経っているはず。
「無視かよ」
「どうする、ギルト」
「足組んで座る天使なんて変わってんな」
これがギルトの声か。女の子が惚れそうなイケメンボイスだな……。一番人気が合ったのも分かる気がする。この声に美男子って鬼に金棒じゃん。うらやまぴーや。
「どこまで俺らを無視できるかな」
ギルトが鼻で笑うのが分かった。
目を開けたい衝動に駆られるが、ここは我慢だ。
……ッグ!? 息が出来ない!
いや、厳密に言うと、鼻呼吸が出来ない。誰かに思い切り鼻をつままれた。なんだこの地味な悪戯は……。
思わず反応してしまい目を開けそうになったが、何とか平静を保てた。これからじわじわとこんな悪戯をされ続けるのかな。
「こいつなかなかやるな」
「ピクリとも反応しなかったぞ……。死んでるんじゃねえのか?」
「ペンで顔に落書きでもしてやるか」
……はぁ!? なんて幼稚な! 水性ペンだったらまだ許せるが、油性ペンだったら、もう平手打ちだぜ? この世界にこの二つのペンの違いがあるのかは知らないけど。
「あ、僕、ペン持ってるよ」
絶対この声とこの話し方はジョイルだ。可愛らしい悪魔の代表。甘い声のくせに言っていることが怖え。
「よし、手始めに馬鹿とか書いておくか」
ギルト、てめぇ、この可愛い顔に落書きしてみろ。倍返しじゃ済まさねえからな、と心の中でどでかい口を叩いておく。
キュポッとペンのキャップが外れる音が聞こえた。
え、いや、まさか本当に描くの? 女の子の顔に? 悪魔だと分かっていたが、本当に悪魔だ。
「ちょい待って」
そう言葉を発したの同時に私は目をパチッと開けた。その瞬間、鮮やかな血の色をした真っ赤な瞳が視界に入ってきた。
顔面近ッ! つか、顔整い過ぎてやべえ。彫刻?
鼻筋がシュッと通っており、大きく凛々しいつり目、整った薄い艶やかな唇……、オールバックで一つに括られた長く黒いサラサラとした髪からはとても良い匂いがした。
なんじゃこりゃ……、人間!? あ、悪魔か。どこぞのアイドルなんだよってぐらいにレベル高すぎて、目が溶けそうだ。
「こいつ、固まってるぞ」
「ギルトの美しさに惚れたとかなんじゃね? どの天使もすぐお前に惚れるし」
深緑色の瞳のチャラ男だと思われるハーヴィーがニヤニヤしながらそう言った。
溶けた目を凝固しなければ……。
「おい、天使、俺の声聞こえてるのか?」
ギルトが私の顔を覗き込む。
これ以上近づかないでおくんなし。目だけでなく、心臓にも悪い。廃人に生身のイケメンはきつい。免疫がないっす。勘弁して下せえ。




